製造業のひとつの方向性「サービス業化」
このガラパゴス事業もそうであるが、製造業の付加価値の方向性としてサービス業化がある。
従来よくいわれてきたのはハードとソフト。特にAV機器などにとってはコンテンツが重要だということで、コンテンツ企業を買収する動きなどもハードメーカーによくあった動きである。しかしサービス業というのはもっと広い価値を提供する。例えば自動車は巨大な製造業であるが、現金で購入する人が少ないためオートローンやリースなど金融ビジネスの側面も強い。米国のビッグ3などは一時利益のほとんどを金融で稼いでいたぐらいである。さらに保守やメンテナンスなどディーラー網を活用した継続的なサービスビジネスを強化しており、もはや単に車を売るだけのビジネスモデルではない。
ほかにもサービスで成功している事例として楽器のヤマハがある。楽器はハードウェアであるが、それをより多くの人に売るためには楽器を演奏できるようにならなければならない。そこで全国に音楽教室を展開し、特に子供達から音楽を学べる教育事業も長年展開してきている。そのノウハウを活用し、最近ではオンライン上で楽器を練習できる「ヤマハミュージックオンライン」というサービスを展開し、教室に通わなくても学習できるということで時間とお金に余裕ができた中高年により広がっている新しい楽器ニーズに応えている。
こうしたサービス業化の方向性を考えればガラパゴスにも他の戦略があったかもしれない。例えば一時提携していたCCC(カルチャコンビニエンスストア:現在は提携解消)の店舗網を活用するならば、TSUTAYAで購入したパッケージ商品としての書籍やCD、DVDは自動的にデジタルデータとしてガラパゴス端末の中で読めるという価値づくりをすれば、まだまだすべてデジタルに移行するは不安がある人々には手元にパッケージも残るという安心感があり、しかしデジタルの利便性も享受できるという価値提供が可能になった。
同様に、店舗の専門スタッフに相談するとお薦めコンテンツが自動的に自分のガラパゴスに提供されて、気に入ったものだけ購入できるというようなサービス化もできたかもしれない。ほかにもガラパゴスを購入すると自宅の本棚全部を自炊してガラパゴスで読めるようにするサービスを付けてしまうという自炊サービス付き(最近は自炊代行はコンテンツ側から厳しいが)などというのも「面倒くさい」と「家が広くなる」というまさにサービス業的な顧客ニーズに応えられるかもしれない。
このように顧客ニーズ発想で考えれば端末だけでできることは限られるため、おのずとサービス業発想になる。そしてそれをすべて自社で提供するべきか、サービス業とアライアンスするべきかは状況により選択すればよいだろう。大事なのは最終的に顧客が得られる価値なのだから。