「オレを殺したのは誰だ」
この30年、経済は凋落の一途を辿り、この国はその間に育ち、社会に出ていかなくてはならなかった若者の生き血を吸い、見殺しにすることで延命を図ってきた。(P.16「プロローグ」池田香代子)
この一文には、自身の子どもがまさにロスジェネに当たり、その成長を見守ってきた池田の母親としての実感が滲んでいる。日本という国が30年間にわたって、本来その成長資源となるべく産み育てられ体力も知力もあった若者たちを国家的に無策のまま見殺しにし、選択肢と可能性を潰し、低成長を叩き込んで内向きに消極的にし、人生をただ痩せ細らせたのを見てきた母親の嘆きである。
「オレを殺したのは誰だ」とは、山上の2020年のツイートだ。そんな日本の過去30年と人生を共にせざるを得なかった(逃げることが叶わなかった)人々の呆然と途方に暮れるしかない負の感情が擦り切れ、局地的な「最後の爆発」を見せてきたのが、ここ数年ほどの日本のありようなのだ。
五野井は「ロスジェネの事件はこれからも続くと思いますよ」と発言している。
低成長に円安に最低出生率にジェンダーギャップ指数の底割れ。何一つ褒められないけれどとりあえず「延命」したこの国はいま、少しの「やったこと」ではなくたくさんの「やらなかったこと」のツケを払っている。下の世代を「見殺し」にして自分たちは「延命」した当事者たちは、その負債をちゃんと払ってから退場してくれるだろうか、それとも。