アップルの強みが生かされていない
また、デザインの問題もあるようだ。中国企業にとってアップルの要求する湾曲したレンズなどを、精緻に、むらなく製造することは容易ではない。高純度、高品位の製造技術の実現という点で、中国企業の実力が十分ではないことが示唆される。
米国の報道では、ビジョンプロをテストしたジャーナリストが、「印象的、没入感はある。ただ重い」との感想を残した。バッテリーを外付けにしたことは首にかかる負担軽減につながるだろうが、どうしてもかさばる。腰につけるのが面倒、コードがあるため使い勝手が今一つ、といった指摘もある。装着後、額に赤い痕が残ることを気にする人もいるだろう。
また、アップルのヒット商品を振り返ると、小型であることは重要だった。iPod、iPhone、ヒットというべきか議論の余地はあるがアップルウォッチと、いずれもポケットに入る。常時ゴーグル型端末を装着し出歩く状況は、まだイメージしづらい。
鞄に入れて運ぶのも手間がかかる。空間コンピューティングという夢の実現をめざすビジョンプロだが、解決されるべき課題は多いようだ。
iPhone以来のヒット商品を生み出すのは難しい
そうはいっても、アップルは高い成長を実現した企業だ。その鮮烈な記憶を頼りに、アップルの成長を夢見る投資家は多い。6月30日、アップルの株価は上昇し、終値ベースの時価総額は世界で初めて3兆ドルを突破し、約3兆500億ドル(440兆円)に達した。
5月下旬以降、世界の金融市場では、生成型AIの利用増加期待も急速に盛り上がった。アップルがAIを用いたサービスを提供して、ゴーグル型端末の利用可能性を高めるといった成長期待が高まったことも手伝い、アップルの収益拡大という夢を抱く投資家は増えた。米国の金融環境がまだ緩和的な部分を残していることも、投資家心理を支えている。
アップルは主要投資家の期待、要請にこたえなければならない。ある意味では、アップルの実力が問われる。2016年以降、世界のスマートフォン出荷台数は減少している。さすがのアップルといえど、どのように新しいヒット商品を生み出して収益分野を拡大するか、成長戦略は一筋縄にいかないとの腐心は高まっているだろう。