「ビジョンプロ」は真新しさに欠ける?

6月5日、アップルはゴーグル型の端末である“ビジョンプロ”を発表した。ビジョンプロを装着すると、ユーザーの目の前に、現実世界と、バーチャルな空間が同時に広がる。「拡張現実(AR)などのデジタル技術を身近にし、より満足度の高い生活を実現する」とアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は高らかに宣言した。

アップル本社のスティーブ・ジョブズ・シアターに展示された「Apple Vision Pro(ビジョンプロ)」=2023年6月5日、米カリフォルニア州クパチーノ)
写真=dpa/時事通信フォト
アップル本社のスティーブ・ジョブズ・シアターに展示された「Apple Vision Pro(ビジョンプロ)」=2023年6月5日、米カリフォルニア州クパチーノ)

ただ、今のところ、ビジョンプロの需要はやや盛り上がりに欠けるとの観測も出ている。実際、7月3日に端末の生産見通し下方修正が報じられた。元々、類似商品も販売されており真新しさに欠けるとの指摘もあった。また、持ち運ぶのに手間がかかりそうとの見方もある。

下方修正が報じられた当日、米国市場が短縮取引で薄商いの中、アップル株は小幅に下落して引けた。AI=人工知能という成長テーマへの短期的な注目増加もあり、アップルの成長に期待する投資家は多いが、本当にゴーグル型の端末がアップルの高成長を実現できるか否か不確定な部分は多い。今後のアップルの事業戦略を慎重に確認する必要性は高まっている。

スクリーンがなくても映像体験を楽しめる

ビジョンプロ発表の場で、クックCEOは“空間コンピューティング”という概念を提唱した。実際の生活の中でARを気軽に利用できるようにすることで、人々の暮らし、生き方、働き方の効率性、満足度を一気に引き上げる。大まかに、それがクック氏のメッセージだった。

ビジョンプロを使うと、自宅に大きなスクリーンや音響機器を設置することなく、ダイナミックな画像や音響で映画を楽しめるようになる。オフィスでの業務、自動車などの設計など、ビジネスの効率性も高まる。そうした“夢”の実現によって、アップルはiPhoneなどで手に入れた市場を拡大しようとしている。

ただ、足許、ビジョンプロの需要は当初の予想ほどではないかもしれない、との観測が浮上した。3日の報道によると、アップルはビジョンプロの製造を中国の立訊精密工業(ラックスシェア)などに委託した。当初の生産予定は100万台だったようだ。