初めから手が届きやすい価格で投入しておけば…

来年発売予定のビジョンプロに関して、ラックスシェアは初年度(2024年)に40万台程度の生産を計画しているという。また、同じ報道の中でアップルは、中国のサプライヤーに対して、初年度、13万~15万台分の部品を供給するよう要請したとされる。

報道内容を額面通りに解釈すると、アップルの当初の予測に対し、実際の需要はそれほど盛り上がっていないとみられる。なお、2018年11月、アップルはiPhoneなどの販売台数の公表を取りやめると発表した。ビジョンプロの発表時にも、潜在的な需要がどの程度か、販売目標台数などは公表されなかった。

現在、ビジョンプロの価格は3499ドル(約49万円)だ。しかし、3日の報道の中には、アップルが価格帯の低いゴーグル型端末の開発を急いでいるとの内容もあった。もしそうなら、初めからアップルのブランド競争力を生かしつつ、より魅力的な価格水準の製品を市場に投入したほうが、成長の可能性は高まるだろう。現時点で、ビジョンプロの潜在的な需要増加の期待は、盛り上がりを欠くように見える部分がある。

ユーザーの“ほしい”気持ちに刺さっているか

そうした観測が出始めた要因として、まず、ビジョンプロは真新しい商品とは必ずしも言えない。2012年、グーグルは“グーグル グラス”のプロジェクトを発表した。アップルよりも早く、メタ(旧フェイスブック)やソニーはゴーグル型端末を発表した。

一方、iPhoneのヒットによって1.1兆ドル(約150兆円)ともいわれる製品、アプリ、サービス市場を形成したアップルが、ゴーグル型端末を投入する意義はある。ビジョンプロは、AR技術などを活用してデジタル空間で作業を行いつつ、実際に近づいてきた人とフェイス・トゥ・フェイスでコミュニケートできるという特性もある。

問題は、そうした機能面の差異が、どの程度、人々の“ほしい”と思ってしまう気持ちに突き刺さるかだ。すでによく似た製品が発表されているということを踏まえると、一時、新型iPhoneの発表時にアップルストアの前に人々が長蛇の列をなしたような熱狂的な成長期待がビジョンプロにあるとは考えづらい。