肉筆の私信は報道の域を超えていないか

では今回はどうか。広末は公人に準ずる存在ではあるし、その彼女がW不倫をしていたと報じることは「公共的関心事」といえるだろう。

これがLINEのやりとりだったら、出されても仕方ないと思っているが、肉筆の私信を公開することは、報道の域を超えていないのだろうか。これをおもしろがって放送したテレビも同様である。

こんな疑問は、ふた昔前なら他のメディアから出ていたはずだ。だが文春一強時代の今、そうした素朴な疑問さえ投げかけないのは一体どうしたことか。

だいぶ前になるが、大手新聞の敏腕記者がテレビの報道番組のキャスターに抜擢され、歯切れのいい話ぶりでたちまち茶の間の人気者になったことがあった。

その記者が付き合っていた不倫相手が、テレビの人気者になって彼が冷たくなったと、文春で告白したのである。なれそめやベッドの上でのやりとりを明かし、その中に、彼にバナナを使われたという「ひと言」があった。

私は、その記者をいささか知っていたので、これを読んだ時、ここまで書く必要があるのかと疑問に思った。文春が発売されるとその人間はキャスターを降り、東北の地方支社に異動していった。

“不倫文春”といわれるくらい文春は昔から不倫報道が多い。表現もえげつなく、武士の情けが感じられないと思うことが何度かあった。

車内から窓を少し開けて撮影しているパパラッチ
写真=iStock.com/Andrii Lysenko
※写真はイメージです

今回はどうも文春らしくない

話を広末に戻せば、文春(6月29日号)では、記者に広末自ら電話をかけてきて、彼女の所属している事務所に対する批判を延々話している。だが、誌面を読む限り、何をいいたいのか皆目見当がつかない代物である。

文春の記者も、あなたのいっていることはこういうことか? なぜ今、事務所批判をするのか? 女優を辞めようと決意したのか? 子供の親権はどうするのか? などの質問をどうしてしなかったのか。どうも文春らしくない。

ところで、4月19日に最高裁である判決が出た。「国税に口利きで100万円」と文春に書かれた片山さつき参院議員が名誉毀損で訴えていた裁判で、文春側に賠償金330万円を払うよう命じたのである。

2018年に文春は片山氏が事務所ぐるみで財務省に口利きを行い、100万円を受け取った。決定的証拠とともに爆弾証言を公開すると、連続追及していた。

週刊文春電子版には今(6月29日現在)でも、「片山さつき事務所に新疑惑『2000万円口利き』スッパ抜き」という見出しで、「『国税100万円口利き疑惑』、『消えた政治資金』につづき、またしても片山事務所を舞台にした口利き疑惑が発覚した」と載っている。

だが、その報道内容が事実ではなかったか、事実に近いことはいくらかあったが、名誉毀損は成立したということであろう。