2年で8000億円の売上増

ゲーム内でも登場する「ナイスネイチャ」は今年5月30日に35歳で息を引き取った名馬である。

毎年の誕生日にクラウドファンディングを行っているが、ウマ娘登場前の2020年は約176万円が寄付されていた。それがウマ娘リリース後になると、2021年に1万6296人から集まった金額が3582万円、2022年となると1万7155人から5412万円にも達した。

ウマ娘でプレイをしながら、擬人化された美少女に対する思い入れが派生し、その「原作」となった名馬に対する人々の敬意と庇護感が凝縮された結果としての20~30倍もの寄付効果が続いているのだ。

競馬産業(JRA+地方競馬)の売り上げ約3.5兆円(2019年)→約4.3兆円(2022年)といった伸長に、この数百万人のプレーヤーと100万人近いゲーム課金者が効果を与えたのは確かだろう。

日本トップタイトルとなったモバイルゲームとのメディアミックスによって日本全体を渦巻く「馬への興味」が、競馬産業の超好景気を支えている、という事実は揺らぎのないものだ。

競馬場のスターティングゲート
写真=iStock.com/winhorse
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「賭け」も「推し」も同じ行為

賭けという行為自体が、ぶっちゃけた話、評判が悪い。それはスポーツそのものを楽しんだり、選手を応援するよりも、本人が投資効果期待という“邪心”をもって取り組んでいる、と思われるからだろう。

だが、一概にそれは全否定してしまってよいものなのだろうか? 賭けといっても金額の多寡は実にさまざまだ。

アイドルの世界でも貢ぐかのように、特定の推しタレントのアクリルキーホルダーや握手券付きCDを購入するファンがいるが、これもある意味「賭け」の要素も入っている。

自分が推したタレントがトップをとることを望み、実際にファンが増えれば増えるほど目に見えてそのタレントのユニット内の扱いが変わっていく。ファンは「関与すること」を求めている。

スポーツベッティングに興じる友人を知っている。彼らはプレミアリーグの各クラブ・選手の情報に網羅的に通じており、サッカーゲームの『FIFA』も毎回新しいシリーズをプレイする。有料でサブスクしているサッカーの統計サイトに日次でアクセスし、推しのクラブ・選手のシーズン別結果をつぶさに研究している。

彼らにとって賭けは「自ら日々磨いた分析観の正しさを証明するもの」である。人によっては儲けた金額はそのまま次の賭けに使い、その利益を生活余剰にまわそうなんて気はさらさらない。

「賭け」なのか「推し」なのか判別がつかないほどに、視聴も熟読も検索も研究も賭けも、興味ある対象にむけた没頭の一つの派生行為にしか見えなくなる瞬間がある。