メッセージは、受け手にとっての「魅力」

「伝えたいこと」を「伝えられたいこと」へと変換する。

それが「伝えるべきこと」──。

いまお話ししたことは、ごく簡単にいえば、こういうことです。

でも、ひと口に「伝えられたいこと」といっても、「耳を傾けてもいいかな」というレベルのものもあれば、「ぜひとも詳しく聞きたい」というレベルのものもあります。

受け手にしっかりと納得してもらい、あわよくば共感してもらうことを考えるなら、後者のように、少し前のめりになってかかわってもらえるような投げかけをしたいところです。

受け手を引きつける「引力」が、そこにほしい。そのためにも、「伝えるべきこと」は、受け手にとって「魅力」と呼べるものになっている必要があります。

この点をふまえて、ここまでのお話をまとめると、「伝える」ために、まずやらなくてはいけないのは、つぎのことです。

伝え手の「伝えたいこと」を、受け手を引きつける「魅力」へと変換し、ひとことでいいあらわす。

この「ひとこと」を、ぼくは〈メッセージ〉と呼んでいます。

〈メッセージ〉とは、伝え手の「伝えたいこと」を代弁するものであり、受け手にとっての「伝えられたいこと」「魅力」でもあるひとこと。

この〈メッセージ〉がきちんと定められているからこそ、文章であれ、お話であれ、ビジュアル表現であれ、あるいは事業であれ、適切に表現し、適切に伝えることができるようになります。

あらゆる伝えるコミュニケーションの〈表現物〉は、まず〈メッセージ〉があって、そのあとに存在するものです。

もっといえば、文章を読んだり、話を聞いたりして、すばらしいと感じたのだとしたら、多くの場合、それは文章や話の書き方、話し方がすばらしいという以前に、〈メッセージ〉がすばらしいということ。

本当の意味で「伝わる」のは、文章などの表現の部分ではなく、その奥に内在する〈メッセージ〉なのです。

座ってノートにメモを書き込む女性
写真=iStock.com/marchmeena29
※写真はイメージです

すべては〈メッセージ〉からはじまる

本書の「はじめに」にも書いたように、ぼくは編集家として、出版などのメディアに関係する仕事だけでなく、企業や各種団体のプレスリリースや発表資料、オウンドメディア、メディア掲載記事をはじめとしたさまざまな発信にかかわったり、教育事業に取り組んだり、講演活動をしたりと、いろいろな伝えるコミュニケーションにたずさわっていますが、基本的にそれらすべてを、この〈メッセージ〉を手がかりに監督しています。

〈表現物〉にきちんと〈メッセージ〉が存在しているか。

それは十分なものか。

そういう目で見ながら、もし不十分なところがあるのなら、伝えるコミュニケーションの構造のどこの部分の通りがわるいのか、その原因は……などとイメージのなかで点検しつつ、文章の書き手やクリエイター、経営者らに対して補強のための質問を投げかけて必要な答えを導きだし、まずは〈メッセージ〉が妥当なものになるようにうながしていきます。

そして、そこが定まったら、〈メッセージ〉が語られるために十分なものであるように、文章やビジュアルなどの〈表現物〉を調整していく。

そうやって、伝え方を「伝わる化」していきます。

(ちなみに、同様の取り組み方は、今後、AI活用にも必要になるのではないかとみています。この先、AIがさらに身近な存在になり、文章をはじめとする「表現の作成」においても重要な役割をになうようになったとしたら、伝え手である人間には、これまでのような「うまく書く力」「つくる力」ではなく、「伝えるコミュニケーションを制御する力」が求められるようになるでしょう。

その際、AIへの作業リクエストはもちろん、AIが生みだす〈表現物〉の目利きや修正に必要となるのは、まさにこの〈メッセージ〉目線です)。