海外から投げかけられた疑念
ジャニーズ事務所の騒動は3月から広がり、国会や政府が動くほどの大きな問題に発展した。
ジャニー喜多川氏(2019年に死去)から性加害を受けたと訴える元ジャニーズ事務所のタレントたちが、児童虐待防止法の改正を求めて約4万人の署名を国会に提出し、政府はこども家庭庁など関係省庁による対策会議を開いた。
ここまで大きな問題になるとは誰も予想していなかったのではないだろうか。
本稿では、今回の騒動を通して浮かび上がった日本的組織に共通する問題を解き明かしていきたい。私は1980年代から組織風土改革のコンサルティングに携わり、隠蔽体質をはじめとする日本的な組織風土の問題に取り組んできた。ジャニーズ性加害問題は、芸能界という特殊な世界で起きた不祥事だと片付けるわけにはいかない。少年たちへの卑劣な性加害でなくとも、会社や業界が黙認している不正や問題はあるからだ。
今回の経緯を振り返ってみよう。
昨年11月、ガーシーこと東谷義和氏と元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が、YouTube動画の対談で性被害について語った。しかし、この時点では一部で話題になったに過ぎない。
騒ぎが大きくなったのは、今年3月にイギリスのBBCが、ドキュメンタリー番組を放送してからである。4月にカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会で記者会見した後、元ジャニーズJr.メンバーによる実名告発が相次いだ。最近の報道には、元マネージャーによる少年たちへの性加害もあったらしいとある。
日本では誰もが知るジャニーズだが、国際的な知名度はほとんどない。したがって、マイケル・ジャクソンの性的虐待を海外の主要メディアが取り上げるのとは意味が違う。BBCがわざわざ取り上げたのは、一連の経緯に何らかの不可思議なものを感じたからだろう。少年たちへの性加害という卑劣な行為に対して、見て見ぬふりを続けてきた日本社会への疑念が生じたということだ。
口をつぐんだ利益共同体
ジャニーズ事務所で「何が起こっていたか」を究明することは重要だ。だが、それよりも、なぜ“黒船”が来るまで卑劣な所業が問題にならなかったのか? を明らかにすることのほうが、本当の意味で事態の全体像を捉えることになるだろう。
ジャニー喜多川氏の性加害については1960年代にも週刊誌で取り上げられ、80年代には元所属タレントによる告発本も出ている。『週刊文春』の記事に対してジャニーズ事務所が名誉毀損で訴えた裁判では、2003年に東京高裁が、ジャニー喜多川氏によるセクハラ被害はあった、と認定している。この時点で、ジャニー喜多川氏の性加害は周知のものとなった。
にもかかわらず、新聞やテレビが騒ぎ立てることなく、告発が事実であるならその後も性被害は続いたことになる。特に同事務所のタレントを起用するメディアは、報道を控えたと見られている。ジャニーズ事務所への忖度、業界の目先の利益を優先した結果である。いわば“公然の秘密”“暗黙の了解”として扱ってきたマスコミや芸能界、日本の社会が海外メディアの目に不自然かつ不可思議と映るのも当然だろう。今となっては日本人の多くも同様に感じていると思うが、これは納得できない顚末なのだ。