フレンチのシェフが和定食をつくる理由

私も先日、レヴォに行きました。この日のディナーでは猪、熊、牡蠣、甘鯛などが出ましたが、すべて地元のもの。谷口シェフの料理はいまやフレンチというより、彼固有の料理でした。しかも朝ごはんは、ごはんと味噌汁で食べる完全な和定食です。

朝食は利賀村で受け継がれてきた朝ごはんをイメージした日本食
筆者撮影
朝食は利賀村で受け継がれてきた朝ごはんをイメージした日本食

しかし、谷口さんの話をうかがうと、その意味がよくわかりました。

谷口さんが富山に来たのは、ホテルからの誘いを受けてのこと。当初は富山で本格的フレンチをやろうと意気込み、フランスや関西から食材を送らせていたそうです。ところがそれが空回りして悩んでいたとき、富山の食材の旨さや調理方法に気づいたのです。

「一緒に山菜を採りにいっても、地元のおばさんたちはすぐに塩漬けにするんですね。当初は『そのまま食べたほうが美味しいのに』と思っていたのですが、地方をめぐってよくわかりました。それって、豪雪に閉ざされた地域で生き抜く知恵なんです。地方には、その地方に根差した独自の料理があるんだから、そしてせっかく富山にいるんだから、それを使った料理をつくったほうがいいんじゃないかと気づいたのです」

現在のレヴォは、食材も器や工芸品もすべて富山のものを使っているそうです。生産者や職人と話をしていると、料理の新たな発想が湧いてくると、谷口さんは嬉しそうに話してくれました。

料理が「いまの気持ち」を描いている

谷口さんの毎日は、敷地内にある土づくりから手掛けた農園で野菜を育て、天然の山菜やきのこを採り、パンを焼く生活です。料理や洗い物や飲料に使う水も裏山から引いています。

そういう経緯を知ってから食べたレヴォの料理はとてもエキサイティングでした。ディナーで出された猪、熊すべて利賀村の契約猟師が獲ってきたもの、ペアリングで出されたお酒もすべて富山のワイン、日本酒でした。料理が載せられた器や工芸品もすべて富山のものです。

柏原光太郎『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(日刊現代)
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いっぽう、宿泊客のみが食べられる朝食は、利賀村で受け継がれてきた朝ごはんをイメージした日本食です。味噌汁は近所の南砺市の種麹店の麹を使い、大豆を通常の3倍以上使う利賀豆腐の煮物、郷土料理のジャガイモの甘い煮っころがしなどが出されます。米はもちろん、富山のコシヒカリです。

訪れる前は「朝ごはんがなんで和食なの?」と思っていたのですが、食べて納得しました。ある意味、夕食は彼が富山に来て利賀村に移転するまでの葛藤と思いを料理にし、朝食は利賀村に居つくことにした谷口さんのいまの気持ちを描いているようにも感じたのです。

朝食で私が気に入ったのは利賀豆腐の煮物でした。固くて重い豆腐なのですが、大豆の味がしっかりとして、優しい風味の出汁と絶妙に合うのです。帰り道に作っている豆腐店に立ち寄り、お土産に購入したほどでした。

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