全国から美食家が訪れる豪雪地帯のレストラン

富山市郊外のリゾートホテルで産声を上げ、その後、南砺市利賀村という人口わずか500人で、交通も不便なところに移転した「L'évo(レヴォ)」というオーベルジュ(宿泊機能を持ったレストラン)がそれです(前回の記事でも紹介したように、同店は、「Destination Restaurant of the Year 2021」に選ばれています)。

レヴォはもともと、富山市にあるホテル「リバーリトリート雅樂倶」のフレンチとして有名でしたが、谷口英司シェフが利賀村の食材に惚れ込み、2020年に移転したのです。

利賀村は、富山駅から車で約1時間半。岐阜県に隣接する標高1000m級の山々に囲まれた谷あいの、富山県内でも指折りの豪雪地帯にあります。過去は多いときには4メートル以上も降っていたといわれ、1971年まで、冬季は雪のために車が往来できず、閉ざされた地域だったそうです。村の主産業は観光ではなく、農業、山菜の加工、岩魚の養殖などですが、人口減少に悩まされている地区です。

レヴォがオープンした2020年12月は、まさに雪が1メートル以上積もったときでした。しかし、オープン当初からフーディーたちは、続々と訪れました。

富山県内でも指折りの豪雪地帯にあるレヴォのレセプション棟
筆者撮影
富山県内でも指折りの豪雪地帯にあるレヴォのレセプション棟

不便な場所に訪れることが「勲章」になっている

利賀村のレヴォは、約7500m2の敷地にレストラン棟、コテージ、サウナ棟、パン小屋など6棟が建っています。

L'évo〈レヴォ〉富山県利賀村 地方料理は進化を遂げる」(Discover Japan 2021年4月6日付)で谷口さんはこう語っています。

〈「山菜を採りに来て、秘境感が気に入りました。ここでなら、薪を燃やしても炭をおこしても誰にも迷惑をかけない。思いきり、好き放題に料理ができると思いました」
「地域を知れば知るほど、料理が進化する。それを教えてくれ、僕の料理観を180度変えたのが富山でした」
「利賀村には、郷土料理や食材保存の知恵があります。まだまだ知らない食材もありますし、知るほどに村が好きになっています。ここでさらに進化するL'évoの料理をぜひ食べに来てください」〉

宿泊はできるものの、コテージは3室しかないため、予約が取れなければまた1時間半かけて戻らなければなりません。しかし、そんな不便な場所に訪れることが、実はフーディーたちには勲章になっているのです。

3室しかないレヴォのコテージ
筆者撮影
3室しかないレヴォのコテージ

2021年のことです。都内のあるレストランのテーブルを4人で囲んだとき、私以外の3人がオープン当初にレヴォを訪れており、全員が山道の運転の怖ろしさをある種、嬉しそうに語っていたのです。

「レヴォに到着する手前の右カーブはこわかったよね」
「そうそう、スピンするかと思った」

など、都内にいて富山県の山奥の道路についてあんなに楽しそうに語っている光景を、私ははじめて見ました。それくらい、フーディーたちにとって、できたばかりのレヴォに行くことは嬉しい出来事だったのです。