29歳の男性は、新卒で外食業の企業に入社し店長として働いていたが、コロナ禍で売上が落ち込むと退職を余儀なくされた。不動産管理会社に再就職するも、年収は100万円近くダウンしたことを発端に、同棲していた彼女との婚約が破棄になった。「お金のことばかり考えるのは卑しいが、お金は大事であると実感している」という。ライターの増田明利さんが書いた『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より紹介しよう――。

※本稿は、増田明利『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)の一部を再編集したものです。

飲食店のカウンターを消毒する人
写真=iStock.com/recep-bg
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コロナ禍で飲食業は大打撃、結婚も破棄に

高津寛文(仮名・29歳)
出身地:神奈川県秦野市 現住所:東京都府中市 最終学歴:大学卒
職業:不動産管理会社(前職は外食業) 雇用形態:正社員
収入:月収25万円、見込み年収は360万円 住居形態:賃貸アパート 家賃:4万5000円
家族構成:独身、両親は健在で他に妹 支持政党:自民党
最近の大きな出費:スーツ購入(9980円)

朝10時頃から始めた引っ越し作業が終わったのは夕方4時。

「独りだから荷物は少ないので簡単なものです。だけど葛飾区の新小岩から府中市への移動だから、随分と遠い所に来たなあという感じです。まったく土地勘のない所だからいろいろリサーチしないと」

部屋の整理は今日中に終え、役所や金融機関への住所変更手続きは明日一杯で完了するつもり。

「これで心機一転して仕事に励みます。職場も住まいも新しくなってリスタート、頑張らないと」

コロナ禍さえなかったら今頃は結婚式・披露宴の日取りを決めようかと思っていた。ところがリストラされて失業、交際していた女性との仲もギクシャクして関係を解消。こんなことになるとは想像だにしていなかった。

「元々の仕事は外食産業なんです。イタリアンレストランと洋風居酒屋を展開している会社で、わたしは店長として働いていました」

創業してまだ15年足らずの若い会社だが、社長をはじめとした幹部連中は鼻息が荒く、近い将来には東証マザーズに上場すると意気込んでいた。

「だけどコロナがまん延したらお酒の提供は駄目、営業時間も短縮、テーブルの稼働率も通常の半分に。まるで生殺しみたいでした」

企業も学校もリモートになったからランチタイム時だって閑古鳥。

「最初の緊急事態宣言が出たときは港区内の店舗にいたのですが、ランチタイムの3時間で来店したのはたった12人という日がありました」