ヒルズの住宅はなぜこれほど高価なのか

――ヒルズが成功する一方で、森ビルが開発を進める港区に「富裕層の街」というイメージを持つ人も少なくありません。

オフィスの賃料は丸の内のほうが高いだろうし、お店はグレードによって価格帯が異なります。ヒルズのなかで、値段が突出しているのは住宅だけです。

私は、住宅にも多様な選択肢が必要だと考えています。自宅から徒歩で職場に行き、仕事が終わればすぐに映画館に行ける。近くの飲食店で食事をした後は美術館にふらっと立ち寄ってみる……。私たちが提供するまで、そうしたライフスタイルをかなえる住まいは日本にありませんでした。

世界の都市として東京を考えたときに、世界にはハイクラスな住居を求める人が多数いるという現実を踏まえれば、東京にもそれに応える住まいがなくてはなりません。

そうでなければ彼らは違う国へ行ってしまう、つまり東京が負けてしまうということになります。東京が世界の都市との競争に勝つために、これまで誰もやっていないことに挑戦してきたんです。

森ビルの辻慎吾社長
撮影=門間新弥

森稔前会長から受け継いだ「森ビルらしさ」

――森ビルが長きにわたり、一貫した都市づくりができるのはなぜでしょうか。

森前会長が示した「都市づくりに対する高い志」「都市とまっすぐに向き合う姿勢」「決して妥協しない、諦めない」「常に新しいこと、難しいことに挑戦する」といったベースとなる視点、思想、姿勢。私はそれらを「森ビルらしさ」と呼び、経営における軸として最も大切にしていて、社員にもよく「森ビルらしい都市づくりをしよう」と呼びかけています。

この軸がいささかもブレないからこそ、長年にわたって一貫した都市づくりを進められているのだと思います。

また、森の思想は、森ビルにとってもプラスとなるだけでなく、東京や日本にとっても重要な思想だと思っていますから、今もあらゆる場面で森が残した言葉・思想を伝えるようにしています。

例えば、森の命日である3月8日を「都市について考える日」と名付け、毎年全社員が集まって、「森ビルらしさ」を確認する日としています。今年の「都市について考える日」でも、その思想を継承・発展させていくことがいかに重要かということを社員に伝えました。