強迫観念に駆られた子供は心を病んでしまった

彼女は学校にもほとんど行かずに練習をしたが、大会で優勝できるようなレベルに到達することはできず、志半ばでスケートをやめることになった。

その後、彼女を襲ったのは母親を裏切ってしまったという自責の念だった。自分は母親が払ってくれた多額のお金を無駄にしてしまったのだと罪の意識にさいなまれ、ついには心を病んでしまったのである。

スケート靴を手に、リンクの上に立つ少女
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後に彼女はこう語っていた。

「現役の時は、親にお金のことで迷惑をかけているんだから、なんとしてでもそれに報いなければと思っていました。楽しいとか、夢を追いかけているとかいう気持ちはなく、ただ親を裏切るような真似はできないという思いで、あらゆることに急かされるようにやっていた感じです。だから結局、大会に出ても失敗することの方が怖くて力を発揮できずミスばかりしていました」

彼女にしてみれば、親から恩着せがましい言い方をされたことによって、強迫観念に駆られてフィギュアスケートをしていたようなものだったのだろう。そのプレッシャーが選手としての成長を妨げたばかりか、心まで壊すことになったのである。

親の言葉の暴力から逃れられないワケ

ところで、子供たちはなぜ、親の言葉の暴力から逃れようとしないのだろう。受験勉強をやめるという選択もできるのではないか。

実際にそれができる子供はきわめて少ない。彼らは親の洗脳に加えて、日頃から退路を断つ言葉をかけられている。それによって逃げることができなくなっているのだ。

次のような文句である。

「これで不合格だったら、うちは家庭崩壊することになる!」
「家族みんなが世間に顔向けできなくなる!」
「レベルの低い学校へ行ったら、あんたなんてすぐにいじめられるわよ!」
「あなたは一生、負け組のままでいいの?」
「やらないなら、今すぐ家から出ていって自分一人で生きていけばいい」

子供はこうしたことを言い聞かされているので逃げることを罪だと思ってしまう。自分のせいで家庭を壊すわけにいかない。荒れた学校へ行っていじめられたくない。家を出ていかされても、他に行くところなんてない……。こうした思いの中で、子供たちは逃げる選択肢を失ってしまうのだ。