頭ごなしに罵声を浴びせかけるのは逆効果

競馬のレースを思い描いてほしい。日本最高峰のG1のレースで、騎手がサラブレッドに乗ってスタートを切ったとする。騎手はぎりぎりまで耐え、最後の最後でタイミングよく鞭を振り下ろせば、コンマ数秒の力を発揮させることができるかもしれない。

だが、幼い馬に訓練の最初の段階から何度も鞭を打ち、「もっと早く走れ!」とせかしたところで、速く走れるようになるわけがない。むしろ、馬は騎手を背中に乗せて走ることすら嫌がるようになるだろう。

人間だって同じだ。

プロ野球選手の大谷翔平選手のように体格にも運動神経にも恵まれていても、幼い頃から頭ごなしに罵声を浴びせかけられ、暴力をふるわれていたら、野球に夢を抱けなくなるだろう。バットを握るどころか、試合を見ることすら嫌になってしまう。

しかし、メジャーリーグに渡った今の大谷選手ならば、監督に活を入れられても「なにくそ」と思ってがんばれるはずだ。なぜならば、それまでに培った野球への愛情、成功体験、そして自分自身で掲げた高い目標があるからだ。

東大生の65%は「勉強しなさい」と言われていない

勉強においても同じことだ。

親がまだ何も成し遂げていない子供に対して厳しい言葉を投げかけたところで、それがいい方向へ転がることは少ない。子供たちは、なぜ自分の努力を認めてくれないのか、自分はそんなにダメな人間なのかと劣等感を膨らませ、勉強を嫌いになる可能性の方が高い。

幼い子供に対して親がしなければならないのは、その子が勉強を好きになるように促すための声掛けだ。このことは東大生の子供時代の経験に基づくアンケートからも明らかになっている。図1を見てほしい。

出典=『プレジデントFamily』2019年10月号「東大生184人アンケート! 賢い子が育った『家庭の中身』大公開」/『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』P36
出典=『プレジデントFamily』2019年10月号「東大生184人アンケート! 賢い子が育った『家庭の中身』大公開」/『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』P36

東大生の65%が「親に『勉強しなさい』と言われていない」と答えていることがわかる。また、同じ調査からは、「よく褒めてくれた」が82%、「何かを決める際、親は自分の意見を聞いてくれた」が86.5%であることが明らかになっている。

これらのアンケート結果は、子供の学力向上のためには叱るより褒めること、強制するより自主性に委ねることの方が有効ということを示している。