恩着せがましい言葉で子供に報酬を求める
教育虐待をする親は、勉強だけでなく、日常の些細なことにまで口出しすることが多い。家族の中であなただけが食べるのが遅い、なんであなただけ寝坊をするのか、この中に一人だけ音痴がいる……。
虐待親は他者との比較の中でしかわが子の価値を見いだせない。だから何かにつけて他者と比べようとするので、目に付く子供の欠点を必要以上に問題視し、がなりたてる。毎日そんなことをされれば、子供が自信を喪失するのは当然だろう。
また、こうした親たちは子供に対して恩着せがましい言葉をかけることがよくある。親である自分が子供に対してどれだけのことをしたのかを懇々と語り、それに見合った報酬を求めようとするのだ。
次のような言葉である。
「一体、おまえの塾代にいくらかけていると思っているんだ!」
「家族はみんなお前の合格を最優先してあらゆることを我慢しているんだぞ!」
「あんたのためにおじいちゃんやおばあちゃんにまでお金借りて苦労させているのよ!」
「私だって叱りたくないのよ。叱るのがどれだけつらいかわかる? 叱らせているのはあなたなのよ?」
「あんたが勝手にやってんだろ」とは反論しづらい
子供にしてみれば、親に一方的にレールを敷かれ、受験勉強をさせられているだけだ。にもかかわらず、親から恩を着せるような言い方をされても、不当な言いがかりにしか思えない。「あんたが勝手にやってんだろ」というのが本音だろう。
だが、面と向かってそのように反論する子供は多くはない。毎日のように親から「これだけ協力しているんだぞ」と言われていると、子供は知らず知らずのうちに親に対して申し訳ないという感情を抱いてしまうのだ。
スポーツにおける例だが、私は以前、フィギュアスケートで五輪選手を目指したものの、途中で挫折して心を病んだ女性に話を聞いたことがある。フィギュアスケートはスケートシューズに十数万、衣装代に十数万、月謝やリンク代に十数万円と、非常に費用がかかるスポーツだ。
彼女の親は何が何でも娘を五輪選手にしようと、普段のグループレッスン以外にも個人レッスンを受けさせたり、スケート場を貸切って練習させたりと多額のお金をつぎ込んだ。すべて母親の意向によるものだ。にもかかわらず、母親は毎日のように練習にいくらかかっているかを示してこう言ったそうだ。
「これだけのお金を返そうとしたら、オリンピックに出てもらわなければどうしようもないのよ。お母さんもお父さんもすべてあなたにかけているんだから、何が何でもがんばってちょうだい」