新聞社もテレビ局もNTTも快く協賛してくれた
最終的に軟連の会長が長野県野球協会のトップに就任して2022年1月、協会設立の記者発表にこぎ着けた。この日、プロ側の代表としてマイクを握ったのが、現協会副会長でもある飯島だ。松商学園高校から明治大学に進み、野球部で主将を務めた。当初から団体設立に積極的だった。
「僕の役割と立場からすると、こういう野球協会を作って発展していけば夢が膨らむと思っていました。ただし、単にプロアマの団体を作っても、それが何になるのか、と周りから言われちゃいますよ、とも感じていました。だから、象徴的なことを作らないとダメ、長野県からプロとアマが試合をする天皇杯を作ろうと言ったんです」
それが県知事杯というプロとアマが参加する日本初の公式戦となって実現する。第1回大会の開催が決定したのは2021年11月。場所も、長野オリンピックスタジアムと決まった。
しかし、公式戦直前まで越えなければならないハードルはまだ残っていた。大学生の参加の許可がなかなか下りなかったのだ。長野県野球協会の理事で松本大学の清野友二監督(37歳)は焦っていた。
「プロと試合をしていい、という許しが出なかったんです。それも誰から許しをもらえばいいかもわからない。大学野球連盟からなのか、関甲新(リーグ)からなのか。今まで前例がないから、と。県知事杯パンフレットはすでに出来上がっていましたし、毎日、胃が痛かったです」
小林や飯島が知人の関係者を通じて、根回しをしてくれた。そして1週間前にやっとゴーサインが出た。第1回大会はグランセローズと松本大がそれぞれ社会人チームを破って決勝に進出。グランセローズが貫禄を見せて松本大に勝って優勝した。
飯島は鳥肌が立った、と感慨深げに当日を振り返る。
「松本大学との決勝で、うちはプロ野球のオリックス・バファローズにいた荒西祐大を先発させたんです。(松本大学監督の)清野くんがインタビューで、『(相手が)全力で戦ってくれて、うれしかった』って。ああ、やってよかったなって思いました。その後に交流イベントがあって、(甲子園に頻繁に出場している)佐久長聖高のユニフォームを着ている子がいたり、グランセローズの選手、小中学生に社会人選手も混ざってキャッチボールをやった。あれはね、ちょっとね……」
感動的だった、と言葉を詰まらせる。
県知事杯トーナメントの公式戦を2年連続で実現した今後の課題は運営資金だ。飯島がプロの立場で金銭勘定を読む。
「これまではこういう団体では年会費を払ってもらう方式はありませんでした。でも、運営費を選手を含む会員各自が出せば自然と注目するし、関心も持てる。なんで子供から徴収するのか、という反対意見もありましたが、10円でもよかったと思っています」
結局、小学生からは取らず、中学生以上、高校生大人から取ることで決着した。とはいえ運営費はつまるところ、スポンサー頼みになる。営業を飯島が一手に引き受けた。
「民間のグランセローズではなくて、協会のためという大義がある。新聞社もテレビ局もNTTも、プロとアマが一緒になったのだから、と言って快く協賛してくれました」