野球をする子供が年々減っている。そうした危機的状況を解消したいと長野県の野球関係者がプロアマの垣根を越えた団体を作り、2年前にプロチームとアマチュアチームが真剣にプレーする公式戦「県知事杯トーナメント」を実現させた。フリーランスライターの清水岳志さんが組織や大会の立ち上げに奔走した関係者を取材した――。(文中一部敬称略)

「ありえない」野球のプロとアマが戦う公式戦が実現

アマチュア選手がプロ選手に混じって公式戦でプレーする――。最近、そんな事例が増えている。例えば、サッカー「Jリーグ」、バスケット「Bリーグ」、ラグビー「リーグワン」で現役の大学生がプロの公式戦に出場した。

では、野球はどうか。NPBの巨人やソフトバンクのペナントレースに大学生や社会人の選手が出場することはありえない。プロアマ協定があるからだ。元プロ選手が高校野球などの監督に就任が可能になるなど、両者は昨今、融和ムードになっているが、それでもまだ厚い壁で隔てられている。

だが、2022年3月下旬、長野県でありえないことが起きた。

プロ野球BCリーグ所属の「信濃グランセローズ」と地元の社会人2チーム、さらに松本大学(関甲新学生野球連盟1部)の計4チームが、プロとアマの垣根を越えて「長野県知事杯争奪 プロ・アマドリームトーナメント」を開催したのだ。

これまで練習試合として巨人や横浜DeNAの3軍とアマチュアが試合をするようなことはあったが、県知事杯を冠して公式戦を開催するのは前代未聞のことだ。

このトーナメントは2023年3月にも2度目が開かれ、長野県でのこの取り組みは中央の球界でも注目されている。

主催したのは、長野県野球協会。プロの信濃グランセローズや、県高野連、県軟式野球連盟など14のアマチュア団体が参加している。プロアマが合体したこの組織がなければ県知事杯実現はできなかったが、その立ち上げには10年もの年月がかかった。

協会発足のきっかけとなったのは、ある新聞記事。長野県出身の朝日新聞記者・山田雄一(現在72歳)は2013年ごろ、同紙の県内版を担当していた(今はフリーのジャーナリスト兼長野県野球協会の広報担当)。

「長野県の高校野球は甲子園でなかなか上位進出できない。どうしてか、という連載を2013年の第95回記念大会の時にしていて、当時の長野県高野連会長の小林善一よしかず(現長野県野球協会専務理事・69歳)さんにインタビューしました」

朝日新聞記者・山田雄一氏(写真左)、長野県高野連会長の小林善一氏(写真右)
撮影=清水岳志
長野県野球協会広報・山田雄一氏(写真左)、長野県野球協会専務理事・小林善一氏(写真右)

県高野連の要職となればどうしても保守的な言動になりがちだが、小林は違った。普段から新しいことに挑戦する姿勢だった、と山田は言う。

「この人なら、何かをやっちゃうんじゃないかと思っていました。『実は人に相談してないことがあって、(県内の)野球界が一つになれないか』という話でした。聞いた瞬間、ぜひ記事にしたいと返答しました」

当時、中央の組織の全日本野球協会もプロアマの統一団体をつくろうとしているが、動きは鈍い。それなら県でモデルを作ろう。それが小林の発想だった。時期尚早というためらいもあったが、記事にしたいという山田の強い申し出に応じた。

記事は大きな反響を呼んだ。