「修道女の研究」

ノートルダム教育修道女会には、一九三〇年代に一八歳で修道女会に入った修道女たちの書類が残されている。入会にあたって提出された「自伝的作文」である。

研究者たちは、その作文を分析し、修道女それぞれが持っているポジティブ感情の度合いをランク付けした。作文につづられているのは、主に信仰に関する思いだ。

信仰の「喜び」などを中心にして書かれたポジティブ度の高い文章もあれば、キリスト教における原罪をはじめとする「罪の意識」などがしきりに語られるポジティブ度の低い文章もある。研究者たちはそれらの言葉を拾っていくことでポジティブ度の程度を分類し、書き手である修道女たちの後年の健康や生存率との関係を調べた。

入会時のポジティブ感情の度合いが高かった上位四分の一と、低かった下位四分の一を比較すると、八五歳時点での生存率が前者では九〇%であるのに対して後者では三四%にとどまった。九四歳時点での生存率が前者では五四%であるのに対して後者では一一%だった。

平均寿命で比較してみても同様の結果が見られ、前者のほうが後者より平均九・四年も長寿だった。

ポジティブだと健康で長生きできる

戸田智弘『人生の道しるべになる座右の寓話』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
戸田智弘『人生の道しるべになる 座右の寓話』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

修道院では基本的にすべての修道女が同じ環境のもとで生活を送る。違いがあるとすれば、各個人の内面のありよう――具体的には感情や考え方――だけということになる。こういう特殊な条件がそろっていたがゆえに、心理的要因が健康や長寿に与える影響がはっきりと証明されたわけだ。

ここで重要なのは「ポジティブ感情と〈健康や長寿〉の間に“相関関係”が認められる」ということにとどまらず、「ポジティブ感情→〈健康や長寿〉」という“因果関係”を認めることができたという点である。

自分が健康で長寿であるから、ポジティブな感情になっているということなら誰も驚きはしない。しかし、修道女が「ポジティブな感情で生活しよう」と心がけたことで健康や長寿が得られたとなると、人々の受け止め方は違ってくる。心のありようが、人生の現実(健康状態)や人生の長さ(寿命)までも変えるというのだから。