歌舞伎町そのものが巨大な集客力を持っている

このように謎を広げていくと、その答えもだんだん見えてきます。このタワーは自己完結させる必要がないのです。目的がある人が立ち寄る場所であっても、ここは完結する場所ではない。ここが丸ビルとのコンセプトの違いです。

あらためて考えれば、丸ビルにしても六本木ヒルズにしても東京ソラマチにしても、それまで観光地としての機能は何もなかった場所に突如、ランドマークを出現させるプロジェクトです。ですからそこにはある種の完結性が必要になります。ショッピングモールがあり、さまざまな客層が楽しめるレストランがあり、展望台がある必要がある。だから客はビルの中を回遊しながら活動を完結できる。これが一般の巨大ランドマークプロジェクトの考え方です。

しかし東急歌舞伎町タワーは前提が違います。そもそも歌舞伎町そのものが世界に誇る巨大な集客力をもった場所なのです。そこには歓楽街があり、日常の賑わいがあります。入り口にはドン・キホーテがあり、近隣には伊勢丹やビックカメラやユニクロ、H&Mがある。ちょいと足を延ばせばゴールデン街があって、裏側に向かって歩けばキャバクラやホストクラブも充実しています。

そもそも集客力があり、回遊性がある街なのですから、このタワーに必要なものは完結性ではありません。これまで歌舞伎町になかったものを作ればいいのです。

歌舞伎町一番街のアーチ
写真=iStock.com/ke
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2階は戦略的にかなり面白い

そのような視点であらためて俯瞰ふかんしてみると、歌舞伎町という街の中に東急が歌舞伎町タワーを作った設計意図が見えてきます。

確かにこの街には映画館はあっても、プレミアムシートの数は足りない。新宿警察署に睨まれずに夜通し遊べるナイトクラブもみつからない。地方からの宿泊客が泊まれるホテルはあっても、外国人の富裕層が泊まるランクのホテルはこれまで西新宿の端にしかなかったわけです。

そう考えてみるとタワー全体の設計の中でも、2階の歌舞伎横丁だけは戦略的にかなり面白い、特筆すべき設計です。中央にDJのステージがある屋台村は、それぞれ北海道から九州・沖縄までご当地居酒屋屋台のエリアに分かれていて、そこに韓国と中国の居酒屋がくっついています。見た目はエキゾチックで、インバウンドの外国人が求めるジャパンを具現化したようなビジュアルで、しかも椅子は座りづらい箱型の椅子。

このフロア、1300席のキャパシティがあるのですが、役割としてはこのタワーで唯一、富裕層の外国人宿泊客も、ライブを観に来た大学生も、タワーと関係なく歌舞伎町を訪れた観光客もすべてを受け入れなければならない機能を期待された設備です。