「丸ビル」という成功事例と比べてみよう
この歌舞伎町タワーはコンセプト的にめちゃくちゃ尖った建物と言われるのですが、ある意味、従来の常識破りの建物でもあります。東京の観光名所の大先輩である東京駅の丸ビルと比べてみましょう。
丸ビルはそれまで大企業の本社しかなかった東京の丸の内を繁華街と観光地に変えた画期的な建物でした。中層階はオフィスタワーでありながら、地下1階から4階までは人気のショップを集めたショッピング街、5・6階は気軽に入れてプチ高級なレストラン、そして35階と36階は東京の展望が楽しめる最高級レストランが入居しています。
その結果、丸ビル開業後は昼間からショッピング目的の人たちが丸ビルに流入を始め、夜はダイニングを楽しむ人たちで賑わいます。隣接する新丸ビルが完成し、近隣の丸の内のビル群もつぎつぎと同じコンセプトで生まれ変わったことで、丸の内は銀座と並ぶ繁華街になり、東京の新しい観光名所となったのです。
その丸ビルという成功事例と照らし合わせて考えると、歌舞伎町タワーの集客力が偏っていることに気づかされます。目的をもって訪れる人にとっては目的地になりうる一方で、無目的な人はそこに滞在できる場所がほとんどありません。
富裕層が泊まるビルなのにブランドショップが入っていない
もうひとつ気づくことは客層のミスマッチです。1泊3万円以上、1泊8万円以上のホテルというのはこれから日本で拡大する成長業態だと思います。富裕層が東京を訪れた場合、10万円の部屋に10連泊しながら東京を楽しむといった時間の過ごし方は当たり前です。ただそのような時間とお金の使い方をする顧客層の大多数はインバウンドの外国人です。
17階から上のホテルにお金持ちの外国人が集まってくるにもかかわらず、その下にあるのは日本人が集まる映画館と劇場とライブハウスです。これはミスマッチではないでしょうか。
もちろん大金持ちの外国人が歌舞伎町タワーに滞在すれば、高級なスパを楽しみ、2階の屋台村のエキゾチックな様子を楽しんだ後、地階のナイトクラブで踊って過ごすという行動は予想できます。しかしここではショッピングはできない。なぜブランドショップないしはドン・キホーテがビルの中に入っていないのか? とツッコミたくなるかもしれません。
おなじミスマッチのお話をすると、推しのアーティストのライブを見に東京に来た地方のファンは、ライブが終わったら近所にあるAPAホテルに泊まるのではないでしょうか。このタワーのホテルは日本人の庶民の推し活に使えるホテルだとは思いづらいところがあるのです。