腸内細菌とメンタル面の関係性がわかってきた
うつ病の原因は未だ不明な部分も多いのが現状ですが、要因の一つとして慢性的な軽度の脳の炎症が関与しているという考え方があります。この理論では、腸内の悪玉菌が増加することにより、腸粘膜に炎症が起き、その炎症が血流に乗って脳にも到達し、炎症を誘発していると考えられています(Possible association of Bifidobacterium and Lactobacillus in the gut microbiota of patients with major depressive disorder. Emiko Aizawa et al,J Affect Disord.2016,202,254-7)。
また、腸内細菌がもたらすメンタル面への作用についてもわかってきました。うつ病患者と健常者の腸内細菌について、善玉菌であるビフィズス菌と乳酸桿菌の菌数を比較したところ、うつ病患者群は健常者群と比較して、ビフィズス菌の菌数が低いことが明らかになりました。1g当たりの便におけるビフィズス菌の数が109.53個以下の場合、うつ病を発症するリスクがおよそ3倍になることが示唆され、善玉菌が少ないとうつ病リスクが高まることが明らかになりました〔「腸内の善玉菌が少ないとうつ病リスクが高いことを明らかに」国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、ヤクルト本社 2016年6月9日〕。
腸内細菌にはストレス反応を抑える働きもある
腸内細菌が、脳の発達や行動にまで関係していることも明らかになりました。
海外の研究で、腸内細菌を持つマウスと持たないマウスの成長観察を行ったところ、腸内細菌を持たないマウスは成長後攻撃的になったそうです。腸内細菌の導入タイミングによる比較観察では、成長初期に腸内細菌を導入したマウスは一般的なマウスと変わらなかったのに対し、成熟後に腸内細菌を導入したマウスは、腸内細菌を持たないマウスと同様の攻撃的な性格になりました。このことから、腸内細菌は脳の初期発達に影響を与えると結論づけられました(藤田紘一郎「こころとからだの免疫学―腸内細菌の働きを中心に―」心身健康科学、8巻2号、2012年)。
さらに、腸内細菌がストレス反応を抑える働きがあることもわかってきました。
九州大学の須藤信行教授らは、腸内細菌を持つマウスと持たないマウスに分けてストレスを与え、ストレス後の副腎皮質刺激ホルモン(身体がストレスを受けた時に増加するホルモン)の分泌量の比較実験を行いました。その結果、無菌マウスは腸内細菌を持つマウスに比べ、副腎皮質刺激ホルモンの分泌量が増加していることがわかりました(須藤信行「腸内細菌と脳腸相関」 福岡醫學雑誌、P298~304、2009年)。