仕事で重要なときに限って、お腹が痛くなるという人がいる。一体なぜなのか。産業医の池井佑丞さんは「腸と脳は密接に関連している。お腹の不調で相談に来た人が、実はメンタル不調を抱えていた事例は少なくない」という――。
腹痛でおなかを押さえるビジネスパーソン
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「腸」と「脳」は情報交換をしている

最近、腸が消化機能を超えた重要な役割をなしていることがわかってきました。腸と脳は頻繁に情報交換をしていて、身体と心の健康に大きな影響を与えているのです。今回は「腸」の働きについて詳しくお伝えします。

大事なプレゼンや試験の前に、お腹が痛くなる経験をしたことがある人は少なくないと思います。緊張や不安、不快といったストレスが要因となり、腹痛や下痢、便秘を繰り返す病態を「過敏性腸症候群」と言いますが、腸に何らかの問題があるわけではないため病院に行っても異常なしと診断され、市販薬で我慢されている方も多いです。

最近では、「過敏性腸症候群」は脳や自律神経などが相互に関与して引き起こされていると考えられるようになりました。これらの関係を「脳腸相関」と呼びます。

脳の表面には約150億の神経細胞があると言われています。一方、腸の神経細胞の数は約1億。この数は臓器の中で脳に次いで2番目の多さです。さらに、腸は脳と約2000本の神経線維で繋がっており、緊密に連携しています。このように脳と腸は密接に関連しており、身体と心の問題に互いに影響し合っていることから、腸は「第二の脳」と呼ばれるようになりました。

お腹の不調の原因が「メンタル」なことがある

産業医としてご相談を受ける中で、メンタル不調が原因でお腹の不調を訴える方の事例をしばしば見受けます。

「過敏性腸症候群」で悩む方は比較的若い女性に多く、発症時に大きなストレスを抱えていることがみられます。ある方は、腹部症状が強く、いろいろな病院を受診するも原因がわからず、メンタル受診を勧めたところ、うつ病の診断で治療となりました。この方の場合、治療開始が遅れたため回復までに時間を要することになりました。

身体症状でメンタル受診をすることに抵抗がある方も多く、産業医の立場としては苦慮します。腸の症状を訴えて内科を受診される方の半数近くが「過敏性腸症候群」と診断されるとも言われており、そこから心療内科を紹介され、メンタル不調に原因があることに初めて気が付く方も多いようです。心と身体の繋がりを理解していただくにはまだ認知度が低いのが現状です。