これといった異常がないのに症状を繰り返す

大腸内視鏡検査などの通常の検査では腸にこれといった異常が見つからないけれど、「会社に行かなきゃ」「絶対にミスできない」といった精神的ストレスを感じるとおなかが痛くなったり下痢するのがIBSの特徴的な症状だ。

そしてこの症状は、ひとたび始まると、“終わりなき負のスパイラル”に陥ってしまうから辛い。これを読まれている人にも、長い間、本当に辛い症状で悩まれてきた方は多いはずで、相当苦しかったと思う。しかも、このような症状は誰かに相談しにくく、社会の理解も(医師ですら)まだまだ乏しいことから、「気のせい」「死ぬ病気ではないのだからぜいたく病だ」「そんなに下痢するならおむつをしておけばいい」などと言われ、孤独の中で、人知れず耐えることを余儀なくされることも多い。

脳が心理的異常(ストレスや不安、緊張など)を感じ、脳の特定の領域(扁桃体や帯状回など)が興奮すると、その情報が自律神経やホルモンによって腸に伝わり、腸で機能不全や知覚過敏といった異常が生じる。その異常が痛みや不快感となって脳にフィードバックされ、それがまた脳へのストレスになって腸に伝わり、症状がさらに悪化する――。こうした悪循環に陥りやすいのだ。

「またおなかが痛くなるかもしれない」不安で負のループに陥る

また、IBSによる下痢や腹痛、途中下車症候群に悩む人に多く見られる「予期不安」という心理状態が、この負のループをスタートさせる一因になっている。

予期不安とは「電車に乗ったらまたおなかが痛くなるかもしれない」「特急だから途中下車できないのにまたトイレに行きたくなったらどうしよう」といったIBSの“発作”に対する不安や恐怖のことだ。

毎朝、電車に乗るたびに感じる「またおなかが痛くなるかも」という不安が引き金となってIBSの発作スイッチが「オン」になり、痛くないおなかが痛くなって悪循環が始まってしまう。

このループに陥ると、腹痛や下痢といった自覚症状だけでなく、突然襲ってくる便意への予期不安そのものにも悩まされて精神的に落ち着きがなくなる。その結果、集中力が低下して何も手につかなくなるブレイン・フォグなど、仕事や日常生活にも支障をきたしてしまうのだ。

予期不安とIBSのループにハマって外出できなくなる、仕事を辞めざるを得なくなるといったケースも、決して珍しいことではない。脳腸相関の“悪目立ち”つまり、“バグ”が引き起こすIBSは、実に困難な病気なのだ。「腸の弱い人」が、長い闘いを終え、治癒への道を歩み始め、再び健康になっていただけることを願う。