花粉症の薬がIBSの症状改善に有効な理由

脳が出すCRHというホルモンが腸に届いてバリアを壊す――。これが精神的ストレスによっておなかが痛くなったり、下痢などの腸の不調が生じたりするメカニズムのひとつだ。実際、よく花粉症で使われている抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)がIBSの症状改善に有効であることが証明されている。

したがって、IBSは決して「気のせい」や「まやかし」ではなく、その分子メカニズムが解明されつつある、「れっきとした病気」なのである。原因がまだ完全にわかっていない病気を診たとき、医師は「気のせい」と精神的な問題にしたがる傾向にあるのだ。

脳腸相関には自律神経(交感神経や迷走神経)を通じたルート以外にもうひとつ「血流を介したホルモンの移動」というルートがあるが、ストレスでおなかが痛む理由は、この「ホルモン系のルート」が関係しているのである。

たまに感じる程度の軽微なストレスならば、ヒスタミンによる腸粘膜の炎症もさほど深刻にならず、短時間で回復する。だが、ストレスや緊張が強すぎたり長期に及んだり、常態化したりすると、炎症が回復しにくくなり、腸は常に傷んだままの状態になるほか、脳と腸をつないでいる神経を介して、痛んだ腸が脳自体にも影響を及ぼすようになる。その結果、ストレスと腸の不調悪循環が常習的に表れるようになってしまうのだ。

ストレスホルモンを抑える「オキシトシン」

ただ、このストレスホルモンであるCRHの悪い作用を抑える良いホルモンも見つかった。それが「オキシトシン」である。オキシトシンは、赤ちゃんやペットに触れたときに「いとおしい」という幸福感をもたらしてくれるホルモンで、別名「愛情ホルモン」とも呼ばれている。お気に入りのぬいぐるみを抱いたり、かわいい動物の動画を見るだけでもオキシトシンは分泌され、ストレスをやわらげつつ、CRFの悪い作用を抑えてくれるので試してみて欲しい。

オキシトシンを出してくれる漢方薬も見つかっている。それが、「加味帰脾湯かみきひとう」である。薬局でも買えるので試してみる価値はあるだろう。

ひと口にストレスというが、人の性格や思考傾向は十人十色、ものごとの感じ方や受け止め方、向き合い方や対処の仕方、人間関係の築き方などにも個人差があって当たり前。

慣れない環境でも気にせずに苦も無く順応できる人もいれば、なかなか適応できずに苦労する人もいる。嫌なことがあっても“ひと晩寝れば”ケロリと忘れて切り替えられる人もいれば、ずっと気に病んで引きずってしまう人もいる。何でも「何とかなるさ」と気楽にとらえられる人もいれば、些細なことで「もうだめだ」と深刻になる人もいる。