小学校算数のなかでも、挫折する子が多い「分数」。東大教授の西成活裕さんは「実際に抽象的な記号であり、数ですらない」といいます。そんな分数の概念について文系ライターの郷和貴さんとの会話形式でわかりやすく解説します――。

※本稿は、西成活裕『東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

分数はホットケーキのイメージでとらえる

【西成先生】今回、扱うのは分数です。算数嫌いを量産している、なかなかの難敵です。

【郷さん】たしかに分数って文系人間からするとつかみどころがない感じで、私もいまだに苦手意識がありますね。

【西成先生】分数は実際に抽象的な記号なんです。だから分数を扱うときに大事なのは、分数を日本語やビジュアル的なイメージに変換してみること。ドリルをこなして分数の計算ができるようになったところで、意味を理解していないとどこかでつまずく可能性が高い。

【郷さん】イメージが大事なんですね。

【西成先生】はい。たとえばホットケーキが「まん丸1枚」と「半分1つ」と「6つに分けたうちの1切れ」あるとしましょう。ホットケーキは全部で何枚分あるでしょうか?

【郷さん】子どもなら「いっぱい!」っていいそう(笑)。

【西成先生】たしかに(笑)。まん丸は1枚とかぞえてよさそうですが、もう1枚は半分、一番小さいのは6つに分けられたうちの1つ分。これを数字で明確に表したいですね。

黒板で算数の問題を解く子供
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです

【西成先生】そこで分数の登場です。

【郷さん】なるほど。

【西成先生】1枚を2つに分けたものの1つ分。これを1/2(にぶんのいち)と表します。

1枚を6つに分けたものの1つ分。これを1/6(ろくぶんのいち)と表します。つまり、ここにホットケーキが、1枚と、1/2枚と、1/6枚があるというわけです。

「分数は割り算」ってどういうこと⁉

【西成先生】このように整数の1刻みの世界よりも細かい単位で数を扱うときに便利なのが分数です。こういうやつですね(図表1)。

【西成先生】真ん中に横線があって、上と下に数字を書きます。分数の上の数字を「分子」、下の数字を「分母」といいます。

【郷さん】上が子どもで、下がお母ちゃん。

【西成先生】そのイメージでかまいませんけど、子ども(分子)のほうが大きい分数もあるので注意してください。

【郷さん】そうでした。

【西成先生】「分子」「分母」という言葉は中国の数学から入ってきたときの名残で、当時の中国の数学では分子が分母よりも大きい分数は扱わなかったそうです。だから下が「母」でも納得感はあったんですけど、今は「子」が大きい場合があるので、正直、現代数学の分数にはあまり適した表現とはいえないんです。

【郷さん】へぇ~。そんな歴史があったんだ。

【西成先生】さてさて、分数のもっとも重要なことをいいますね。そもそも分数ってなんだという話です。結論をいうと、分数は割り算です。

【郷さん】は? どういうことですか?

【西成先生】割り算を違う形で表したのが分数なんです。

【郷さん】じゃあ……、分数って割り算の書き方をコンパクトにしたみたいなもの?

【西成先生】そういうこと。分子は「割られる数」で、分母は「割る数」と表現することもできます。