※本稿は、冨島佑允『人生の選択を外さない数理モデル思考のススメ』(アルク)の一部を再編集したものです。

どこまでが遺伝で、どこまでが環境要因か
突然ですが、ここでちょっと自分の人生を振り返ってみてください。みなさんがこれまでに成し遂げてきたことのうち、何割くらいが生まれ持った能力によるもので、何割くらいが後天的な努力によるものだと思いますか?
当てずっぽうで構いませんので、比率を思い浮かべながら読み進めてみてください。今回は、遺伝と環境のどちらが人生にとって重要なのか、という話です。
人間の行動や特性のうち、どこまでが遺伝によるもので、どこまでが環境によるものであるかは、古くから議論されてきました。この問題は、「nature vs. nurture」というフレーズで広く知られています。nature(ネイチャー)とは、遺伝などによる生まれつきの特性であり、nurture(ニューチャー)は、親のしつけ、経験、勉強などの後天的な要素のことを指します。つまり、日本語でいえば「生まれか、育ちか」ということです。
「生まれか、育ちか」は、「遺伝か、環境か」と言い換えることができます。環境要因は、人が成長するなかで経験するすべてのことをいいます。これには、家庭環境、教育、社会的経験、文化、経済状況などが含まれます。
人間の人生においてnatureとnurtureのどちらの影響の方が大きいかという謎は、世界中の人々が興味を持つテーマです。ですから、それを調べるために、世界各地で「双子研究」がなされています。これはその名のとおり、双子を調べることで遺伝の影響を確かめる研究です。
遺伝の影響は大きい
双子研究の歴史は意外に古く、19世紀にさかのぼります。世界で初めて双子研究を行ったのは、人類学者のフランシス・ゴルトンでした。ゴルトンは進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの親戚にあたり、研究のきっかけもダーウィンが出版した『種の起源』に刺激を受けたことだとされています。
ちなみに、『種の起源』はダーウィンが進化論について記した本であり、今では歴史を変えた名著として知られています。先ほどの「nature vs. nurture」という言葉も、ゴルトンが生み出したものです。ゴルトンはまず、当時の有名人の血縁関係について調べることから研究をスタートしましたが、この方法で研究を深めるのには限界があると感じ、双子を使った研究に切り替えました。
ゴルトンの研究法は、多くの双子に質問表に答えてもらうというやり方でした。1875年、その結果を「双子の研究」(The history of twins)という論文にまとめて発表し、遺伝の影響は環境の影響よりも大きいと結論づけています。
ゴルトンが双子分析を行っていた時代、実は遺伝の法則はまだ知られていませんでした。遺伝の法則である「メンデルの法則」が世間に認知されたのは1900年のことであり(メンデルは1865年にこの法則を発表したが注目されず、1900年に別の学者に再発見され日の目を見た)、ゴルトンの「双子の研究」の論文より25年も後のことでした。