40代で最大になる
また、日本人男性の年収と遺伝の関係を調べた研究を紹介します。この研究結果を見ると、若い頃は環境の影響が支配的(遺伝は2割程度)である一方、年齢が上がるにつれて遺伝の影響が大きくなっていき、40代では遺伝の影響が6割近くに達します。
この結果も、先ほどのIQと似たような説明ができます。働き始めの頃は、企業ごとの初任給の違いや、親のコネの有無などの環境によって年収が決まります。しかし、仕事を続けていくうちに昇格や昇給、転職などで差がついてきて、次第に自分本来の実力に見合った年収になっていくのだと考えられます。結果として、もっとも「脂がのっている」働き盛りの40代において、遺伝の影響が最大になるということです。
このように、データを見ると遺伝の影響がかなり大きいことがわかりますが、努力がムダだとか、結局は才能には勝てないんだなどと落ち込む必要はありません。というのも、遺伝はその人が持つ潜在能力を表しているものだからです。つまり、年齢とともに遺伝の影響が大きくなるのは、経験を重ねることで実力を発揮する術を身につけていくからだと考えられるのです。
要するに人間は、最初は環境に翻弄されてしまうけれども、経験を重ねるうちに自分なりのやり方を身につけ、環境を克服して本来の実力を発揮できるようになっていくということです。人間は人生における挑戦と挫折から自分自身について学ぶことで、本来の自分に近づいていくのです。
1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。2023年より多摩大学大学院客員教授。