何にお金を使えば幸福度が高まるのか。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「これまでの研究では体験・経験への消費は、モノにお金を使うよりも幸福度を高めるとされてきた。しかし最近、これに異を唱える研究が出てきた」という――。
財布を持つ女性
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
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実質賃金は3年連続で低下

私たちの住む地球の資源は、そのほとんどが有限です。

同じく、私たちが使えるお金も有限です。このため、お金をどう使うのかは人生における重要な問題です。

日本人のお金を取り巻く環境を見ると、収入(名目賃金)は微増していますが、物価も上昇しているため、普段の生活はむしろ苦しいと感じることが多くなっていると思われます。厚生労働省の発表を見ると、2024年の物価を考慮した働き手1人あたりの実質賃金は、前年比マイナス0.2%でした。ちなみに、2022年、2023年も実質賃金は低下しているため、3年連続の低下となります(*1)

また、内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、「将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか」という質問に対して、「現在より将来に備える」と回答した割合がコロナ禍以降、増加しています。これは日本人が支出を切り詰め、倹約に努めていることを意味するでしょう。

このように普段の生活に余裕がない中において、できればうまくお金を使って幸せを実感したいものです。

実はこの点は多くの研究者からも関心を集め、これまで数多くの分析が行われてきました。

今回はこれらの研究成果をもとに、「何を買うことにお金を使えば幸せになるのか」という点を考えてみたいと思います。

モノをたくさん買っても幸せになれない

消費と幸せの関係を考える際、まず注目したいのは、「消費量と幸せの関係」です。欲しい商品が多く買うことができれば、幸せになれるのでしょうか。

直感的には幸せになれそうですが、研究結果を見ると、商品の種類によってその影響が異なることがわかっています。

世の中の商品を手に取ることができる「モノ」と、手に取ることができない「体験・経験」の2種類に大雑把に分けた場合、実はモノを数多く買ったとしても幸福度が上がり続けないのです(*2)

多くのモノを買いすぎると、ある地点から幸福度が伸びなくなってしまいます。また、ある研究では、多くのモノを買いすぎると、むしろ幸福度が低下すると指摘されています(*3)

「過ぎたるは及ばざるが如し」というわけではありませんが、多くのモノを買うと、その商品から得られるワクワク・ドキドキ感も減っていき、消費による幸せを実感しづらくなってしまうのでしょう。