一卵性双生児を研究すると遺伝の影響がわかる
現代では、遺伝のしくみは詳細に解明されていて、双子分析は創始者であるゴルトンの時代よりも洗練されたものになっています。
ここで重要になるのが、一卵性双生児の研究です。一卵性双生児とは、もともと1つだった受精卵が2つに分裂して生まれた双子のことで、このタイプの双子は100%同じ遺伝情報を持っています。これに対して、二卵性双生児は2つの受精卵が同時に成長して双子として生まれてきたものなので、普通の兄弟姉妹と同じく、遺伝的な類似性は50%になります。こうした背景から、双子研究は遺伝と環境の影響を分けて考えるのに非常に有効な方法となっています。
例えば、遺伝子が100%同じである一卵性の双子が異なる環境で育った場合、彼らが示す性格や健康、能力の違いを調査することで、「環境」がどれだけ人間の発達に影響を与えるかを明らかにできます。同時に、同じ環境で育った二卵性双子のデータを比較することで、「遺伝」がどれだけ強い影響を持つのかを示すことができます。
双子研究を行う際の基本的な方法には、大規模な調査や詳細なケーススタディがあります。「大規模調査」では、多くの双子を対象に、性格や能力、健康状態などのデータを広範囲にわたって収集します。これにより、統計的な手法を用いて遺伝と環境の影響を分析することができます。
一方、「ケーススタディ」では、特定の双子のペアを詳しく調べることで、個々の事例から深い洞察を得ることを目指します。これには、詳細なインタビューや心理テスト、場合によっては医学的な検査を行うことも含まれます。
「遺伝ガチャ」はあながち無視できない
この研究法によって、多くのおもしろい発見がなされています。例えば、慶応義塾大学名誉教授の安藤寿康先生が行った研究(図表1)を見てみましょう。これは個人のいろいろなステータスにおいて、遺伝と環境のいずれの影響が大きいかを分析した結果です。
身長や体重、運動能力、数学や音楽の才能、文章力などについては、遺伝の影響が相当に大きい(8~9割)ことが見て取れます。一方、外向性や同調性などの社会的な傾向の一部は環境の影響が優勢ですが、それでも4割近くは遺伝の影響を受けています。
みなさんは、「遺伝ガチャ」という言葉を聞いたことがありますか? 「ガチャ」とは、元はカプセル入り玩具の自動販売機である「ガチャガチャ」あるいは「ガチャポン」から来ているそうです。
ガチャガチャは、コインを入れてハンドルを回すと玩具入りカプセルが出てくるのですが、欲しいカプセルが出るかどうかは運次第なため、くじ引きに近いものです。これがオンラインゲームのくじ引きを表す「ガチャ」という言葉に転じ、さらにそれが転用されて、自力ではどうしようもない運任せの要素を「○○ガチャ」というようになったそうです。
そうした表現を借りて、遺伝による生まれつきの才能の違いは「遺伝ガチャ」といわれています。図表1の双子分析の結果を見ると、遺伝ガチャという概念も、あながち無視はできないですね。