鎌田浩毅式文章術
個性的な文章を書くためには、他人の文章を徹底的に真似ることから始めるべきです。新知見の多くは、先人の蓄積の上に成り立っています。先人の蓄積を全部パスして最初からオリジナルを追求すると、かえって遠回りになるのです。
真似るだけでは個性がないという考え方は間違いです。世の中には、参考にしたい名文が数多くあります。その中から誰を自分のお手本として選ぶか。その選択が自分らしさを発揮する第一歩です。
何を書くかという問題についても、同じことがいえるでしょう。世の中で求められる仕事の8割は、既存の情報を組み直すことで事足ります。その意味で仕事はコピー&ペーストそのものです。ただ、いまや検索の技術が発達して、誰でも簡単に情報の切り貼りができます。だからこそ、何を選ぶのかという自分の基準が個性につながるのです。
さらにいえば、何を書くかという選択より、何を書かないのかを決めることを意識すべきです。すでに多くの人が書いていることを書くだけでは、その他大勢の中に埋もれてしまいます。手垢のついたテーマや情報は、思い切って捨てる。そのうえで情報を組み直せば、誰も見たことのない文章が出来上がります。
いずれにしても、すべてを自前にこだわる必要はありません。白紙から新しい知見を生み出すことを「オリジナル」と呼ぶなら、過去の情報や知識を組み直して新たな知見を加えることは「クリエーティブ」といっていい。いきなりオリジナルを目指すのではなく、まずクリエーティビティを身につけることが、優れた差別化への近道です。
(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)