10代の若者による強盗事件が相次いでいる。なぜ若者たちは凶悪犯罪に手を染めるのか。事件取材を続けるライターの板垣聡旨さんは「最近の強盗の実行犯には、素人の若者が多い。彼らはSNS上に溢れるきらびやかな生活に憧れ、金ほしさに『闇バイト』に応募して犯行に及んでいる」という――。
強盗事件があった東京・銀座の高級時計店を調べる警視庁の捜査員ら
写真=時事通信フォト
強盗事件があった東京・銀座の高級時計店を調べる警視庁の捜査員ら=2023年5月8日午後、東京都中央区

高級腕時計店を狙う時点で、指示役も実行役も素人

5月8日午後6時半ごろ、東京・銀座にある高級腕時計店に仮面をかぶった男らが押し入った。この事件で、警視庁は東京都港区赤坂のマンションに侵入した容疑で男4人を逮捕(18日、強盗などの疑いで再逮捕)。男たちは30代の男性店員らに刃物を突きつけ「伏せろ。殺すぞ」などと脅した上、バールのようなものでショーケースをたたき割り、腕時計など74点(販売価格計3億860万円相当)を奪ったという。

逮捕された男たちはいったい何者なのか。警視庁の発表によると、逮捕されたのは、いずれも神奈川県横浜市に住む16歳から19歳の少年で、このうち3人は地元の遊び仲間だという。また、この事件を取材する社会部記者によると、「リーダー役は横浜エリアで有名な暴走族の主要メンバーで、彼がほかの3人に声をかけた」ということだ。

さらに、事件に詳しいアングラ関係者A氏は「実行役も指示役も素人の犯行」だと話す。

「高級腕時計店を狙う時点で素人の犯行。製造番号などでどれが盗まれた時計かわかってしまうから、ニセモノと一緒で一般の店舗では買い取ってもらえない。高級腕時計のニーズは資産価値があることなのに、その点も期待できない。だから闇市場でも7割引きでようやく売れるかどうか。金ほしさで高級時計の強盗を指示した指示役も、日中に人目をはばからずやってしまった実行役もアホだ」

闇バイトの指示役は暴力団に所属しない「半グレ」

A氏によれば、今回の指示役はいわゆる「ルフィ事件」と異なり、暴力団員ではないという。

「ルフィ事件」とは、去年5月から今年1月にかけて全国で発生した連続強盗事件のことで、去年10月以降に30人以上が逮捕された。ルフィと名乗って一連の強盗事件を指示したとされている男ら4人はフィリピン・マニラで拘束され、2月に日本へ強制送還された。報道によると、このうちの1人が6代目山口組中核組織・弘道会傘下の福島連合の関係者とされている。

「弘道会はルフィ事件で上にこってり絞られていて、今回の事件はまず彼らによる犯行ではない。ヤクザの世界ではいま、シャブ(覚醒剤)のほかに詐欺や強盗が『恥』とされている。一方で、シノギ(収入)を集めるにも暴対法などで警察からの締め付けが厳しくされている。だから、下部組織のヤツらは『半グレ』集団に詐欺や強盗といった『闇バイト』の指示役をさせて、そこで得た金を上納してもらっている」

半グレとは、「グレーゾーン」と「グレる」を掛け合わせて作られた言葉で、暴力団に所属せず犯罪行為を行う集団を指す。A氏によると、いまは「ヤンチャして留置所で知り合った同士が徒党を組み、半グレ化。やがてヤクザに声をかけられ、『闇バイト』の指示役に育て上げられてしまう」という。