トロント大学の研究でベストだった選択肢は10個
それでは、行動経済学の観点からは、選択肢はいくつくらい提示するのがいいのでしょうか。
私のデューク大学時代の友人でもあるトロント大学の准教授アヴニ・シャーは、どのくらいの数の選択肢を見せたら、どのくらいの人が商品を購入するか調査しました。
この実験では、被験者である学生に「もし、この中にほしいペンがあったら、1本購入してください。なければ購入しなくてもいいです」と伝え、ある人は「2本から1本を選ぶ」、ある人は「20本から1本を選ぶ」というように選択肢の数を変えます。
結果は図表1の通りです。2本から選ぶ場合、ペンを購入した学生の割合は40%。4本の中から1本、6本の中から1本と選択肢が増えるほど、購入率も上がり、10本だと約90%で購入率は最も高くなります。
しかし、選択肢が11本以上になると購入率は下がります。選択肢が20本まで上がった際は、選択肢が2本しかなかった場合より、購入率は減っています。
もちろん、商品の種類やネットか店頭かなどの購買環境、また顧客層によって、適切な選択肢の数は変わります。自分の商品はどれぐらいがベストか意識的に考慮してみるといいでしょう。
「本日のビール」が消費者を動かす科学的根拠
選択肢が多いほうが人は集まりやすい。しかし、多すぎると今度は選択オーバーロードになり、どれも選べなくなってしまいます。ですから、もしあなたがこのことをビジネスで生かそうと思ったら、「マーケティング」の段階と「店頭」での段階とで、選択肢の出し方を変えるべきです。
例えばあなたがバーを経営していて、そのバーの売りが「クラフトビールの種類の豊富さ(100種類のビールがある)」だとしましょう。こういった場合、この売り自体は生かすべきです。販促など、集客をする段階では存分に「クラフトビールが100種類あります」と謳いましょう。人が集まりやすくなります。
しかし、いざお客さんが来る店内で「クラフトビールが100種類あります」だけだと、選択オーバーロードに陥らせてしまいます。
対策としては、ビールの種類や味、アルコール度によって種類分けし、見やすく整理するのもいいのですが、“軽くつつく”を意味する「ナッジ理論」という理論も有効です。例えば、「本日のビール」「人気ビール」などのおすすめを作るという方法です。
また、顧客の気分によって意思決定できるよう、「気分爽快になりたい方は、このビールをどうぞ」とおすすめするのも良いでしょう。「これがおすすめですよ」と“軽くつつく”ことで、顧客は100種類のビールをいちいち吟味せずにデフォルト(おすすめのビール)を選択し、「いいものを選んだ」と満足します。
人が物事を認知するときには、瞬時に直感的に判断する「システム1」と、じっくり考えて論理的に判断する「システム2」とがあり、それらを場面場面で使い分けています。
特にバーなどでは、友人と話をしながらメニューを見たりしているのでシステム2が働きにくいはずです。システム1でも楽に決められるナッジは、消費者にとってもありがたいものになります。
このように、私たちが生きているのは選択オーバーロードの世界であり、どのような整理・提示であっても、そこには必ず企業側が仕掛けた戦略が隠れています。