近所のファミレスやスーパーを捜索する

Dさんは病識がないだけではなく、それまでまったく精神科医療にかかったことがない、未治療の状態で過ごしてきたということでした。

Dさんは訪問看護に対する拒否が強く、私たちが行くタイミングを見計らって必ず外出してしまい、なかなか会うことができませんでした。

近所のファミリーレストランやスーパーにいるなど、行動パターンはだいたい把握することができたので、Dさん宅の訪問時には、まず周辺の捜索から始めることがほとんどでした。

訪問して不在を確認すると、まず30分ほど周囲を捜索します。

どれほど探しても会えない日が多いなかで、運良く本人と会えた日は、少しでも様子を聞くためにできる限りの努力を重ねました。

80代とは思えないスピードで歩いて行ってしまう

あるときは、猛暑日に炎天下を歩いているDさんを発見することができました。

すぐに声を掛けて、お茶でも飲みながら少しだけ話をしたいと近くの喫茶店へと誘ったのですが、Dさんは私たちと目も合わせず、ひたすら逃げていこうとします。

しかし何度断られても必死に食らいつきながら、一緒に横を歩いて少しでも様子を確認しようと試みました。

ところがDさんは私たちからなんとかして逃げようと考えているようで、とても80代の高齢者とは思えないようなスピードでどんどん歩いて行ってしまいます。

私たちはできれば自宅の様子を見ながら話を聞きたいと考えているのですが、Dさんはどんどん自宅から遠ざかっていってしまいます。

真夏の炎天下で高齢者が歩き続けるとなると、今度は熱中症や脱水症状が心配になります。

そこで私たちは水分を取るよう懇願するのですが、それでもDさんは決して立ち止まろうとはしません。

熱中症になるリスクを考えて断念
写真=iStock.com/show999
熱中症になるリスクを考えて断念(※写真はイメージです)

そのまま追い掛けていっても、Dさんは話をしてくれるどころか、限界まで歩き続けてしまうため、私たちは熱中症になるリスクを考えて、Dさんと話すのを断念しました。

Dさんについてはこうしたことがこのあとに何度もあり、結局どうやっても介入することができませんでした。