「とりあえずビール!」──居酒屋に入ってまず一言。我々はその店で扱うビールの銘柄を自然と選ぶことになる。飲食店は巨大な試飲の場だ。それだけにテーブルにビールが運ばれてくるまでには、営業マンの熾烈なバトルがある。
本物の営業マンは誰だ?
人物にせよ企業にせよ、そしてビールにせよ、真贋を見極めるのはとても難しいことである。
「あいつは本物だ」
などと軽々に口にする人がいるが、本人がいかにも軽佻浮薄な人物では、逆に「本物」の信憑性が疑われてしまう。
ビール大手4社の営業マンを取材しながら、常に頭から離れることがなかったのが、この「本物」という言葉だった。
日本というドメスティックなマーケットの中の、ピルスナービールという極めて狭いレンジの中で鎬を削り合うビール4社は、「わが社こそ本物」と主張してやまない。その主張は原料、製法に関する主張に始まり、見せ方、売り方に至るまで、大げさにいえば、果てしがない。
裏返せば、4社のビールの質に極端な違いがないからこそ、こうした「本物争い」が起こるのだろう。もちろん、耳を澄ますようにして味わえば違いはあるのだが、ブラインドで試飲して全銘柄名を的中できる人は、たぶん少ない。
だからこそ、ある銘柄のビールがテーブルに運ばれてくるまでには、営業マンたちの血で血を洗う……いや、泡で泡を洗うがごとき闘いが繰り広げられるのだ。
一般消費者にとってビールの質に大差はなくとも、その売り方には「生き様の違い」と言っていいほどの違いがある。
さて、本物は誰だろうか?