今回の戦争が「使える」と気づいたアメリカ

【手嶋】佐藤さんが指摘した「アメリカはウクライナが望むような勝利のシナリオは描いていない」というのはまさしくそれなのですね。ウクライナを支援はするが、本気で勝たせてしまえば、新たな世界大戦を招いて、アメリカの命取りになりかねない。だから、ゼレンスキーが望むようなシナリオを認めるつもりはない――。非情ながら、合理的な思考です。

【佐藤】別な表現でいえば、ウクライナを勝たせることは構造的にできない、ということです。

【手嶋】一方で、世界大戦のリスクは避けたいと考えながら、巨額の資金をはたいて武器の供与はウクライナに続けている。そんなアメリカの胸の内をどう読みますか。

【佐藤】ワシントンの視点にたてば、この戦いはウクライナとロシアの間接戦争でした。それがいまや、ウクライナ・西側連合対ロシアの直接対決に近づいています。そのプロセスで、アメリカは、今回の戦争が「使える」ことに気づいたのだと思います。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは疲弊していくと考えるようになったのです。

光夕日の砂漠環境での丘の上に立っている 3 つの完全装備と武装兵士の分隊
写真=iStock.com/gorodenkoff
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【手嶋】超大国アメリカとしては、民主主義と相いれない価値観を持つ「プーチンのロシア」と直に戦争を構えなくても、ロシアの国力をおおいに()ぐことができると思い至ったということですね。

ウクライナに戦わせることで「ロシアの弱体化」を狙う

【佐藤】しかも、アメリカが現地に送っているのは兵器のみで、自らの将兵の血を流すことはありません。戦争で死ぬのは、両軍兵士とウクライナの民間人だけです。誤解を恐れずに言えば、アメリカは、ウクライナをけしかけて戦わせることで、「ならず者」ロシアの弱体化を実現することができるわけです。

フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッドは、「ロシアに対する経済制裁によって、ヨーロッパ経済、とくにドイツ経済が麻痺していくことについても、ひそやかに満足感を味わっていることでしょう」と『第三次世界大戦はもう始まっている』(著・エマニュエル・トッド、翻訳・大野舞、2022年、文春新書)のなかで指摘しています。ドイツはウクライナ支援のための軍事支出を増やさなければならないのみならず、ロシアから得られなくなった天然ガスに相当するLNG(液化天然ガス)をアメリカから高い値段で買わなくてはなりません。この戦争によってドイツが弱体化するというトッドの指摘は鋭いと思います。