なぜ、効率化が進んだのにますます忙しくなってしまうのか。理由はシンプルで、資本の成長のために人間の欲望を無限にしたからです。ケインズが見誤ったのもここで、彼はあらゆるモノが大量に安価に作れるようになり、ある程度のモノが行き渡れば、需要はどこかで飽和すると思っていたのです。

しかし、実際には何が起きたか。ジョン・ケネス・ガルブレイスが指摘したところですが、地位財や広告によって刺激された人々の欲望は尽きることがありませんでした。例えば、自動車でいえば、性能に大差がなくても、ブランドやグレードでほんの少しだけ意味付けし、差別化すれば、買い替えを促す理由になります。車としては、国産車だって、昔の外国車よりずっと性能がいいにもかかわらず、私たちは満足できないで、外国車を求めてしまうのです。そのために、ローンを組んで、必死に働くことになる。

結局のところ私たちは、無限の消費/無限の成長/無限の加速を要求されるばかりで、時間を奪われ続けています。それに、どんどん生活のテンポが加速していく生活はストレスフルで、メンタルヘルスを蝕んでもいます。

今、私たちが直面している事態とは、資本主義の“意図せざる結果”です。だとすればこの事態を前にして、私たちは資本主義に“ある種の制限”をかけなければいけないのではないでしょうか。加速を強いるシステムには、皆でブレーキをかける必要があります。

これは、あなた1人の心掛けや取り組みで、できることではありません。1時間ヨガでマインドフルネスをしても、その間に20件も未読メールが溜まったら意味がないからです。社会を変革する、本気の仲間が必要です。

資本主義のせいで地球も疲弊している 所得階層別の二酸化炭素排出量の割合

働きすぎにブレーキを

加速する社会にブレーキを掛けるといっても「皆で遅いインターネットを使おう」「飛行機や新幹線を控えてバスや船舶で移動しよう」というのではありません。不便を強いられる世界は誰も望まないし、社会運動として共感を得られないでしょう。

私が提案しているのは、キャップ(上限)制です。1つには、まず社会全体で労働時間を減らしていく。「週休3日制」をルール化し、24時間営業や日曜営業も減らしていくことを目指します。現在でも自主的に週休3日制を採用している企業はありますが、競争原理がそのままだと「自分(たち)だけが休む」のは勇気が要ります。

年末年始やお盆休みなどは皆も同じだから休業にしやすいわけで、社会的にルール化することが大切です。商業店舗の24時間営業や日曜祝日の営業も日本ではあたりまえになっていますが、ヨーロッパでは逆に深夜や週末に開いているほうが珍しい。それで生産性が下がったという話も聞きませんし、労働者の幸福度や満足度は休暇が多いほど上がっているなどポジティブな調査結果が出ています。