戦前の軍国主義がいまだ残る

【玉木】夏の甲子園大会は、8月6日、9日の広島・長崎の原爆投下の日、15日の終戦記念日、13〜16日頃の死者を迎えるお盆を跨ぐ日程で行われます。

選手の坊主頭は俗界の雑念から離れる僧侶の姿のようでもありますが、戦時中の若い兵士の姿そのものでもあり、開会式の入場行進も、教育的野球を強調した朝日新聞社が帝国陸軍の閲兵式をまねたもので、戦争を象徴しています。

最近は、誰が指導したのかわかりませんが、拳を握って腕を前後に振る自衛隊式の行進が多くなっているようですが……。

【小林】生前、野村克也さんにインタヴューしたとき、プロ野球に入ったら、野球場には戦争用語が飛び交っていて驚いたとおっしゃってました。

ミスをすると「営倉行きだ」と怒鳴られる。負けると「玉砕」で、「戦犯探し」。「善戦」、「苦戦」、「激戦」「核弾頭」……すべて戦争用語です。

思考停止の高校野球

【玉木】戦後日本を占領したGHQ(連合国最高司令官総司令部)は、『忠臣蔵』『曽我狂言』などの敵討ちの芝居を禁じると同時に、柔道や剣道などの武道を禁止して日本から復讐や戦いの考え方を絶ち、ベースボールを奨励しました。

戦後プロ野球が復活したとき、GHQの幹部がプロ野球選手に「ベースボール・イズ・デモクラシー」と語ったことが、鈴木明さんのノンフィクション作品『日本プロ野球復活の日昭和20年11月23日のプレイボール』(集英社文庫)にも書かれてます。

が、じつは日本の野球は「デモクラシー(民主主義)」ではなく、戦前の「軍隊文化」「軍国主義文化」が野球のなかに色濃く継承されていたんですね。

関東地方の高校のある監督が、開会式の軍隊式の入場行進がイヤで、地方大会の開会式の予行演習で、生徒たちに観客席に向かって笑顔で手を振って歩かせたことがあった。すると「関係者」が血相変えて飛んで来て、「キチンと歩け!」と怒鳴って直させたという話を聞きました。

軍隊の行進
写真=iStock.com/Tamaraagramovic
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【小林】典型的な高校野球の思考停止の一例ですね。何が正しくて何が間違っているかを考えようともしない。2020年春夏の甲子園大会が中止になったとき、春のセンバツに選ばれていた高校が夏に甲子園で1試合だけ試合をしました。

それはけっこう素敵なイベントだと思いました。半分の学校は勝って終わった。そういうやり方や別のやり方など、いろんなアイデアをもっと出し合って新しい全国大会を作ればいいのにと思った。その議論には高校生の野球部員にも参加してもらうべきでしょう。