さらに次の自己報酬神経群だが、文字通り自分に対する報酬が与えられることによって機能する神経群である。では、脳にとっての報酬とは何だろう。「人間には生まれながらにして持った『仲間になりたい』という本能があって、脳に『人が喜ぶことが自分にとってもうれしい』と感じさせます。つまり、貢献心が満たされるときに『自分にとっての報酬』ととらえ、『自分でやってやる』という欲望へつながっているのです」と林教授は語る。

日本大学大学院
総合科学研究科教授
林 成之

1939年生まれ。日本大学医学部・同大学院医学研究科博士課程修了。米国留学を経て、93年、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター部長に就任。2006年より現職。主な著書に『脳に悪い7つの習慣』などがある。

何かトラブルに巻き込まれて「嫌だな」「面倒だな」と感じた途端に思考力が低下し、解決策を見出せなくなる。逆に「このトラブルを解決することでお客さまや会社の仲間を助けることができる」と肯定型でとらえられれば、「このオレが最高の解決策を出すのだ」というモチベーションが生まれてくる。

また林教授は、「自己報酬神経群は『もうできた』『もう終わりだ』と思った瞬間に、モチベーションを低下させる機能があるので注意してください」と注意を促す。「だいたできた」と感じることで、無意識のうちに思考することをやめてしまうからである。

「それを防ぐのには、目標達成の仕方にこだわったらいい。日本代表チームの水泳選手も『そろそろゴールだ』と思った途端にスピードが落ちます。そこで私は、勝ち方に勝負をかけるように彼らを指導しました。すると北島選手たちは『残り10メートルは日本中の人が感動するような勝ち方をする』といって、見事な結果へつなげてくれたのです」

それなら同じ売り上げ目標の金額を達成するのでも、目標まであと1割のところまできて後は流して終わりにするのではなく、ほかの人が売れずに困っている製品を売ることにこだわってみたらどうか。その売り方のコツを掴んでオープンにしてあげれば、組織全体の売り上げアップへつながって皆から感謝されるだろう。そして何よりも、自分自身の達成感が向上するはずである。

金融、武道、失敗学、脳神経外科というよって立つ分野の違いはあっても、マイナス状況に直面した際、それに背を向けたり怯んだりすると、人間の思考力がダウンしてしまうことを指摘している点では共通している。何かと閉塞感が漂う世の中であるが、ここは一つ気持ちを前向きに切り替えて、思考力をアップさせてみてはいかがだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(南雲一男・熊谷武二・坂井 和・小倉和徳=撮影)
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