CTスキャン2回で年間限度を超えることも
それにしても医療被曝の被曝量を見ていると、日本人の被曝恐怖症がいかに偏っているかがわかる。
日本医学放射線学会など12学会・団体は、CT検査などの普及で医療の検査、治療による被曝が増えていることを受けて、患者ごとに医療被曝の総線量を把握する仕組みづくりに乗り出している。
CTスキャン1回の被曝量は5.30ミリシーベルト。下手をすればCT検査を2回受けただけで、職業被曝の年間限度である50ミリシーベルトをオーバーしてしまうのだ。最近の米TIME誌(6月25日号)でも、CTによる被曝の危険性を取り上げていた。記事によれば1回のCTスキャンの発ガンリスクは歯のX線を1400回撮るのに等しい。
また飛行機による高度飛行は、宇宙からやってくる放射線に被曝しやすいことが知られているが、1回のCTスキャンの発ガンリスクは5時間飛行240回分に相当する。同じく空港の全身スキャンを7万回受けるのに等しく、20本入り1パックのタバコを毎日19年間吸うのと同じだという。
それぐらいCT検査はリスクが大きいのだ。にもかかわらず、日本では少々、頭を打ったぐらいで「CTを撮りましょう」と医者から言われるし、患者もそれに応じてしまう。しかも、前々回で触れたが、日本では他の病院で撮ったCTで診察するのを嫌がられる場合が多く、複数の病院でそれぞれCTや血液検査を受けることが珍しくない。
脳腫瘍など深刻な病状が疑われる場合には仕方がないが、そうでないならCT検査やPET(陽電子断層撮影装置)検査はよくよく考えて応じるべきだろう。
CTのリスクに対する日本人の無関心をよく表しているのが、図2だ。人口100万人当たりのCTスキャナの台数は、日本はOECD諸国の中で突出している。他の国々がCTのリスクに気づいて導入を抑制している中、日本だけが一直線に増え続けている。
それだけ身近に被曝リスクが転がっているということだ。しかし、日本人はほとんど関心を示さずに、福島第一原発事故の影響だけを大きく取り上げて騒いでいる。はなはだバランスを欠いた被曝恐怖症なのである。
※すべて雑誌掲載当時