「女としての成功」にはケア労働が不可欠
そのなかでタレント・エッセイストの小島慶子さんと対談する機会に恵まれました。小島さんも男児の母親です。そこで私から、こんなお話をしました。
「同じ性別役割分業意識も、息子と娘への影響のあらわれ方はやはり違って、息子たちは素直に内面化して『男』に育つけれど、娘たちは『学業や職業での成功』と『女としての成功』というふたつの価値に引き裂かれていく」
性別役割分業の価値観を内面化し、「男らしさ」のイメージに囚われがちな男性には「男らしさ」に対する疑問が乏しいからだろうと思います。「男らしさ」とされるものの内実は、学業やスポーツ、仕事で競争に勝ち成功することなど、一般に好ましい、ポジティブなものですが、反面、そのような競争に勝ち抜けないことに「男としてどうなのか」と感じさせてしまうのは男性にとっても好ましいこととは言えません。
一方で、ここでお話しした「女としての成功」は結婚して子どもを産み、育てることで、このイメージは実に根強いと感じます。問題なのは、そこには必ず無償労働がセットになっている点です。女性は妻として母として、家庭内で家事、育児、介護のために労働力を提供する。それに対して対価が支払われることは基本的にないため、unpaid work、無償労働といわれます。それらは自分以外の家族のお世話にあたる労働なので、ケアワーク(ケア労働)とも呼ばれます。
女性の無償労働時間は男性の5.5倍
図表1を見てもわかるとおり、1日あたりの有償労働と無償労働にかける時間を男女で比較したところ、ほかの先進諸国も決して男女が五分五分ではなく、女性のほうが多く無償労働を担っています。しかし日本ほど極端ではないことは一目瞭然でしょう。
この図では男性の有償労働時間、つまり外での仕事が諸外国と比べていかに長いかも見て取れます。全体で見ると、日本の女性は、無償労働に男性の実に5.5倍もの労働時間を割いています。それで男性と同じだけ稼げるはずがありません。
無償労働を女性に偏らせることは、女性の経済力を奪うことです。また、女性が仕事を持っているのといないのとで、男性の無償労働時間にそれほど差がないこともわかっています。男性の一日は「仕事」に大半が費やされるのに対し、仕事を持つ女性は「仕事」の上に「家事・育児・介護」も乗っかってくることになります。
このように偏った状態では、対等で健全なパートナーシップを育むためには相当の意識を払う必要があります。対等ではない関係性に容易に陥りやすいことに注意が必要です。