もっとも迫力があった刺青
私が5回の刑務所を通じて、いちばん迫力があると思った刺青は橋本弘文、いちばんきれいだと思ったのが松野組長だった。
風呂でも見ることができるし、工場が一緒だったので、工場から舎房に戻る際の検身のときにも見ていたが、何度見ても惚れぼれする刺青だった。
私の刺青は収監前に急いで入れたので両腕だけだったが、きれいに仕上がっていたので面目は立った。当時、きっちり仕上がった刺青はやくざでも少なく、筋彫りのままや途中で終わっている者も多く、カッコが悪かった。
刺青の絵柄は龍や虎、鬼、蛇、浮世絵など日本を象徴する和の図柄が多い。私が龍を入れたのは、彫師の彫永が龍を得意にしていることもあったが、じつは映画を見て、彫るなら龍がいいと思っていた。『日本侠客伝花と龍』で主演の高倉健が演じた玉井金五郎が龍を彫っていたのを見て、(あれ、ええなァ)と、あこがれたのである。
ただし、「花」は彫らなかった。「花」と「龍」だから本来は菊(花)も入れなければならないのだが、菊を入れると女の影がチラつく。渡世の邪魔になると思い、龍ばかりにしたのである。
高倉健の唐獅子牡丹にまつわる伝説
高倉健といえば『昭和残侠伝』で入れた唐獅子牡丹の刺青が有名だが、絵柄が唐獅子牡丹になった経緯として、こんな話を聞いたことがある。
田岡一雄三代目は刺青を入れていなかったが、「もし、わしが刺青彫るんやったら唐獅子牡丹にする」と口にしたこのひと言が回り回って高倉健の唐獅子牡丹になったのだという。
なぜ、三代目が唐獅子牡丹に惹かれたのかはわからない。このエピソードについても三代目から直接聞いたわけではないし、映画関係者にたしかめたわけではないので、真偽のほどは不明だが、東映の大部屋俳優だった当時、私は映画界のそんな「伝説」を耳にしたものだ。