変革が相次ぐ現在のビジネスでは考え続けることが求められる。ビジネスに有効な考え方とは何か、問題解決のプロフェッショナルにその真髄を聞いた。
前回まで問題解決の具体例を見てきたが、せっかく正しい解決策を思いついても、会議などで上司や顧客の反対にあい、なかなか実行に移せないケースがある。ビジネスの現場では、関係者の説得も解くべき問題の一つといえるだろう。
なぜ正しいはずの提案が却下されてしまうのか。それは相手の要求内容(What)のみに注目して、要求の背景(Why)をなおざりにしていたからだろう。
夫婦関係を例にするとわかりやすい。妻が「あなたと一緒に暮らしたくない」と怒ったとき、額面通りに受け取って「では離婚するか」と答えると、話はややこしくなる。夫婦間のコミュニケーションで大切なのは、「一緒に暮らしたくない」というWhatをそのまま受け止めるのではなく、その裏に潜むWhyを理解することである。妻が怒ったのは、家事を手伝わないことが原因かもしれないし、仕事に忙しく家族サービスを怠っていたからかもしれない。それがわかれば、こちらの返答の内容(What)も変わるし、適切な言い方(How)を選ぶこともできるはずだ。
右脳で考え左脳で整理する
ビジネスのコミュニケーションも基本は同じだ。Whatは左脳の領域だが、Why やHowは右脳の領域である。仕事は左脳だけで片付くと思い違いしている人も多いが、同時に右脳を働かせることで、はじめて相手を納得させる提案ができるのである。
思いついた解決策は、生煮えの段階で相手にぶつけてもいい。ボクシングでも、相手にジャブを当ててこそ、パンチの効果を測定できる。アゴに当てても効き目がないようなら、別の角度から打ち込んだり、強さを変えてパンチを進化させることができる。相手にヒアリングを重ねてからアイデアの完成品を提案するやり方もあるが、プロトタイプをぶつけながら修正を加えていったほうが、結果的に早くゴールに近づけるだろう。
解決策に説得力を持たせるためには、自分の頭の中に情報の仮想データベースをつくっておくことも重要だ。例えば他業界で同じような事例があれば、それを解決策と一緒に伝えることで説得力が増す。私の場合、頭の中で「リーダーシップ」「競争戦略」「ベンチャー事業」といった引き出しを20つくり、それぞれに印象的なエピソードを収納。提案の中身に応じて、臨機応変に取り出せるようにしている。事例集などを作ってPCで管理することも可能だが、作成や維持管理の負担が大きく、労力の割には得るものが少ない。普段から問題意識を持って情報に接していれば、使えるものだけが自然に頭の中のデータベースに残っていく。おやっと思った情報に出合ったら、脳みそにレ点を打ち、あとは右脳に任せてしまえばいい(図5)。
以上、私の思考法を紹介してきたが、ロジカル一辺倒でないことに驚いた人も多いに違いない。しかし、スピードを求められるビジネスシーンに、論理を緻密に積み立ててじっくりと答えを探す余裕はない。左脳と右脳をうまく連携させてこそ、早期の問題解決が実現できるのである。