変革が相次ぐ現在のビジネスでは考え続けることが求められる。ビジネスに有効な考え方とは何か、問題解決のプロフェッショナルにその真髄を聞いた。

産業構造が変わろうとしているとき、業界内だけを見ていると対応を誤りやすい。業界の既存の枠組みが変わるのだから、ある意味では当然である。注視すべきは、既存の枠組みの外だ。

業界の環境を分析するフレームワークとして、マイケル・E・ポーターが提唱したファイブ・フォース分析がよく知られている。ポーターは業界の魅力度を「新規参入の脅威」「買い手の交渉力」「供給業者の交渉力」「代替品の脅威」「既存競争企業間の敵対関係」という5つの競争要因で分析した(図4)。

CDショップを例に考えてみよう。レコード会社が卸価格の値上げを決めたら「供給業者」、逆に消費者が値引きを求めてきたら「買い手(顧客)」が脅威になる。また、海外から新しいタイプのCDチェーンが参入してきたり(「新規参入」)、同じ商圏に別のCDショップがオープンしたり(「企業間の敵対関係」)、さらにはCDレンタル店が台頭することも(「代替品」)、CDショップにとって好ましい状況とはいえない。

ただし、これらはすべて既存の枠組みの中での話である。産業構造が変化すれば、既存の枠組みでは変化を捉えきれなくなる。音楽配信の時代には、レコード会社が消費者に直接、音楽を配信することが可能になり、CDショップそのものが不要になってしまう。あるいはさらにミュージシャンが流通と直接結びつき、レコード会社さえ要らなくなる可能性もある。実際、「iTunes Store」などでは、そうした中抜きが活発になっている。ファイブ・フォース分析では、こうしたダイナミックな動きを捉えきれないのだ。

変化をいち早く察知するには、ファイブ・フォースで分析できる競争要因の、さらに先を見なければいけない。例えば供給業者がレコード会社なら、レコード会社とつながっているミュージシャンを見る。逆に自社がレコード会社なら、小売店だけでなく、その先の消費者サイドで起きている現象に注目する。事業と事業のつながりを事業連鎖というが、注視すべきは連鎖の先である。