ビジネススクールの学部長を務めていたマイケル・スペンス教授もその場にいて、ボードメンバー(役員)に入るよう要請された。スタンフォード大学には、教授は3社以上の会社のボードメンバーに就けないルールがある。マイケル・スペンス教授は、のちにノーベル経済学賞を受賞する学者で、すでにバンク・オブ・アメリカなどの巨大企業のボードメンバーを務めていた。しかし、彼は鼻が利く。3社のうち1社を落として、サン・マイクロシステムズのボードメンバーになった。「世界一豊かな教授」と呼ばれる所以ゆえんだ。

スタンフォード大学の強さは、起業家やエンジニア、投資家などが出会う場があることだ。出会いはさらに組織化されていて、コリドー(スタートアップが格安で入居できる小屋)が用意されており、起業家を支援して投資家に対してプレゼンさせるアクセラレータープログラムも盛んだ。人を集めて出会わせる仕掛けがあるから、ベンチャー企業が続々と生まれるのだ。

世界の大学は、「出会い」の場を上手に設計している

ベンチャー企業を多数生み出している世界の大学は、「出会い」の場を上手に設計しているところばかりだ。

イギリスにはケンブリッジ大学とオクスフォード大学という名門大学があるが、ベンチャー企業を生み出しているのはケンブリッジ大学だ。その中でもトリニティカレッジに集中している。

ケンブリッジの場合、出会いの場はパブだ。ケンブリッジ大学には、ジェームズ・クラーク・マクスウェルが設立したキャベンディッシュ研究所がある。マイクロソフトなどが出資する最先端の研究所だ。パブはトリニティカレッジと研究所の間にある。そこで交わされる先生と学生の会話に聞き耳を立てているのが、アマデウスという有名なVC(ベンチャーキャピタル)の投資家たち。儲かりそうな技術があれば、ベンチャーキャピタリストが声をかけてベンチャー設立へと動き出す。

スタンフォード大学では教授がベンチャー企業に出資して余禄にありつくのに対し、ケンブリッジ大学は教授が自分で商売をやってもいい。お金はVCから引っ張ってくるので、それで研究設備は揃えられる。成功して教授が大学を辞めれば、ポストが空くので助手もうれしい。世界中から野心的な研究者が集まってくる理由でもある。

中国の北京にある中関村も起業では負けてはいない。中国には大学と民間が出資する校弁企業という仕組みがあり、清華大学や北京大学は中関村に数百の校弁企業をつくっている。

世界を見渡せば、ほかにはアイルランドのトリニティカレッジ、都市で言えばドイツのベルリンが野心的な若者たちで賑わっている。年間500を超える新規企業が設立され、起業の聖地と呼ばれるようになった。一方、ロンドンのカナリーワーフ地区はフィンテック関連の起業の中心に。スウェーデンでは、エリクソンの本社があるシスタサイエンスパークが起業の中心だ。デンマークのコペンハーゲン、フィンランドのヘルシンキやオウルなども盛り上がっている。共通点は、やはり起業家や研究者、投資家が集中していて、彼らが自然に出会う場があることだ。