知識はあるのにアイデアが浮かばない、物事がうまく整理できない……。そんな悩みを抱えているなら、一度あれこれ思案することをやめ、身体から脳の機能を高める方法にアプローチしてみてはいかがだろう。

職場の問題児が生まれる意外な理由

軸の意識が希薄だと、精神面で力んだり、バランスを欠いた人格になりがちだ。職場の中に、性格的にどこか偏った人がいないだろうか。頑固な上司、オドオドとした部下などは、どこの職場でも見かけるだろう。生まれつきの性分だと周囲も本人も思っているかもしれないが、実は軸が希薄なことに原因がある可能性も高い。軸ができればこれらの状態が嘘のように解決するケースもあるのだ。

次に、身体意識である「軸」を、ゆる体操によって意図的に鍛える仕組みを見てみよう。

現代人はストレスや恒常的な運動不足などにより、身体が常に凝り固まっているばかりか、背骨が不自然にゆがんだ状態にある。これでは通る軸も通らない。ところが、人間には本来、背骨をまっすぐに戻そうとする機能が備わっているので、身体をゆるめて余計な負荷を除去すれば背骨がひとりでに正しい位置に戻り、軸も通りやすくなるのだ。

また、軸の形成そのものを促すゆる体操もある。たとえば「坐骨モゾモゾ座り」と「柱角背骨スリスリ体操」だ。

坐骨モゾモゾ座りは、椅子に座って「モゾモゾ」と言いながらお尻を左右に動かし、左右おのおののお尻の中央にある坐骨を意識する運動だ。坐骨を“立てる”ことで自然に背筋が伸び、理想の座り方ができるようになる。仕事を始める前にさりげなくモゾモゾしてみるのもお勧めだ。他方の「柱角背骨スリスリ体操」は、立ったポジションから柱の角を使って背骨の際をこすってほぐし、背骨の意識を高め、軸を形成しやすくしていく。

こうして、軸の形成により物事の本質が見えてくると、強いリーダーシップが取れるようになる。これはビジネスマンにとっては大きなメリットだ。

昔から地域の中に一本だけ高い木があると、それが目印になることが多かった。「あの高い木のところに集まろう」となるわけだ。人間にはまっすぐに伸びたものを目印にするという本能的な傾向があるためだが、それは人間関係にも相通じている。軸がまっすぐに通っている人のところに人は自然に集まるようになる。判断能力が高く、トラブルにも適切に対処できるような人には、当然、厚い信頼が寄せられるからだ。これを私は「一本杉効果」と名付けている。軸ができると、周囲がその人にリーダーになってほしいと期待するようになり、また、実際にそれに応える統率力も備わってくるのだ。

一流の経営者はみんなゆるんでいる!?
「ビジネスマンや経営者も、一流の人はみんな身体がゆるんで軸が通っています」と高岡氏は言う。たとえば京セラの創業者・稲盛和夫氏(左)やソフトバンクの孫正義氏などだ。孫氏のすっきりとした立ち姿はいかにも軸を感じさせる。(写真/PANA(左)、Getty Images(右))

稲盛和夫氏や孫正義氏はまさにその典型だ。なかでも、私が特に軸を感じるのが稲盛氏だ。彼は、普段はだらりとリラックスしているが、いざというときにはすっと屹立できる。この切り替えが素晴らしい。また、稲盛氏は著書の中で人間を「可燃性」「自燃性」「不燃性」という三つのタイプに分類している。何か新しいことを成し遂げるには、自ら燃える人でなければならないということを主張すると同時に、それ以外の人に、適材適所で役目を与えることの重要さも説いている。このような考察ができることこそがバランス感覚の鋭さの証拠であり、人の資質を瞬時に判別できるのも、彼自身に明確な軸があるからだろう。

彼らがビジネスで成功したのは、もちろん卓越した発想とアイデア、さらには並外れた行動力があったからだが、それらを支えているのは、ゆるんだ身体と、そこに構築されたしっかりとした軸だった可能性は極めて高いと思っている。身体をゆるめることは、本来持っている能力を発揮させるばかりではなく、新たな能力を開花させる可能性も秘めている。いずれも簡単な体操なので、あなたも今日から試してはどうだろうか。