改憲の「論点」はすでに整っている
改憲派の主張も、近年まで押しつけ憲法論(日本国憲法無効論)から全面改正論(2014年の自民党改憲草案)まで、主権者たる国民に現実的な選択肢を提示するというより、自己の考えにこだわりその出来栄えを競うことに終始するものが多く、現実に国民意思を集約する気概が見えない論ばかりであった。
そうした議論状況を突破し、憲法改正を現実的選択肢に近づける努力を行ってきたのが、安倍晋三元総理大臣である。彼は憲法改正国民投票法(平成19年法律第51号)を成立させて、憲法96条の憲法改正手続きを立法として具体化し、さらに自民党内の議論を2018年のいわゆる「改憲四項目」(憲法への自衛隊の明記など)にまとめあげた。
その後私たちは、その安倍元総理が志半ばにして凶弾に倒れる(2022年7月8日)という、日本憲政史上屈指の大事件に見舞われた。この事件により憲法改正への道のりは不透明性が増したようにも見えるが、そうではない。次項で示すとおり、改憲の論点は憲法9条についてはすでに整っている。自衛隊を何らかの仕方で憲法に明記するという点で、改憲を掲げる各政党間にズレはない。それを今やるのかやらないのか、改憲派の本気が問われている。
論点は「憲法のどこに自衛隊を明記すべきか」
各政党の努力により、論点は整っている。例えば2023年4月13日の衆院憲法審査会の自由討議では、自民党および日本維新の会が憲法9条に条文を追加して自衛隊を明記するという憲法改正を訴え、他方で公明党は憲法72条ないし73条への自衛隊の明記という主張を、国民民主党は憲法第5章「内閣」の章内での自衛隊の明記という主張をした(「衆院憲法審で9条議論 自民と維新、自衛隊明記を主張」、毎日新聞2023年4月13日)。自衛隊を憲法9条の追加条項に明記すべきか、他の箇所に明記すべきか、ここで改憲派の各党が一致できれば、自衛隊明記のための憲法改正の発議(憲法96条)は可能な状態である。
したがって、自衛隊を憲法9条に明記すべきか、それとも憲法72条ないし73条を含む憲法第5章に明記すべきかを争点に、衆議院の解散・総選挙を行って民意を集約すべきだと筆者は主張する。護憲派は護憲派で、改憲阻止に必要な衆議院の総議員の3分の1以上の議席をめざして、選挙で戦えばいい。