帰り道、涙があふれて止まらなかった

数年後に一般職は廃止され、現在では全国転勤社員と地域限定社員の区分だけが残っています。当然ながら性別による仕事の差はなくなりました。

異動初日の帰路、本来やる気に燃えていて良いはずなのに、地下鉄に乗った瞬間に、涙があふれて止まりませんでした。悔しかったのか、悲しかったのかは、よく憶えていません。

大阪の営業では男性と対等に仕事をさせてもらったし、頑張った分、評価もしてもらえました。お客様からも一人前に扱っていただき、異動する際には大いに激励を受けて東京本社にやってきたのです。自分から異動希望も出していません。こんなことなら、大阪でもっと営業をしていたかったと、そのときは思わずにはいられませんでした。

長い歴史や文化を背景として、社会通念や慣習のなかで形成されたステレオタイプの思考(決めつけ、思い込み)から生まれる「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」は、「D&I」「DE&I」施策の難敵の一つです。社会通念や慣習のなかですり込まれた「アンコンシャス・バイアス」は、誰もが抱えています。

企業側も消費者側も「これが炎上?」と気づきにくい

それはまさに「無意識」で「こうであるはずだ」「常識である」と思い込まれているために、自ら気づきにくく、指摘されないと気づけないばかりか、素直に受け入れにくいのです。

たとえば、企業の商品やCM表現などが、「家事や育児は女性の役目である」というイメージを強調したものだったとします。従来であれば普通に行なってきた内容でも、昨今では、「アンコンシャス・バイアス」であると指摘され、SNSで大炎上し、謝罪した上で広告・商品の販売中止などに追い込まれたケースも散見されています。

企業側も、一般消費者側も、「まさかこれが炎上?」と思った事例も多いのではないでしょうか。それほど気づかずに行なってしまうのが「アンコンシャス・バイアス」であり、セクハラやパワハラなどの各種ハラスメント以上に気づきにくく、日常の言動に潜んでいるので怖いものです。

企業組織内で、「アンコンシャス・バイアス」が存在すると、「DE&I」などの妨げになる上に、組織風土の悪化、社員のモチベーション低下などが知らず知らずに起きてきます。組織の活性化をはばんでいく可能性があるのです。