一方で、優子ママは、「遊び方がいい加減な人は、仕事においてもいい加減なはず」とも指摘する。銀座のクラブは店と担当ホステスが許した顧客は「ツケ」で飲むことができる。だが、なかには売掛金をいつまでも精算せずに、知らんぷりを決め込んでいるようなお客もいる。金銭面でルーズな様子からは、いい加減な仕事ぶりが透けて見える。

内面的なものだけではなく、外面的なところに表れるものはないのだろうか。たとえば服装はどうか。社用族の多かった時代はスーツ姿が目立ったが、今は人それぞれ。IT系のような新興企業の経営者は、そもそもスーツで出社していないのでTシャツにジーンズのようなラフな格好で来店することも多い。もちろんTシャツ一枚にもお金がかかっているし、組み合わせのセンスもいい。ただし、たとえばラフな服装というのは出世の「結果」であって、「理由」ではなさそうだ。優子ママも、「服や時計には目立った共通条件はないですね」と話す。飲み方はどうか。何本も高価なボトルを開けるような派手で豪快な飲み方をする客は、出世していくのだろうか。

「何年にもわたって豪快に飲めるお客様は、長く成功が続いているということですから、やはりお仕事の分野でも、勝負運が強く、勘が鋭いのだと思います。逆に飲み方にシビアな方は、お仕事においてもシビアなのでしょう。ただ、どちらがいい悪いということではなくて、お仕事の性質によるのかもしれませんね」

会話の内容はどうか。以前は銀座のホステスの必読紙は日本経済新聞といわれていた。社用族が多かったこともあり、ホステスは経済情勢や経営環境、企業情報を頭に入れて接することが求められた。でも今は違う。

「食に関する話題が喜ばれます。ミシュランガイドに載った店の話などは、盛り上がります。お客様とホステスがどこの店がおいしいという情報交換をすることもよくあります。ゴルフとワインの話題は定番。政治や経済の話も悪くありませんが時期を選びますね」

財布の紙幣の向きを常に揃えている男

持ち物に関しては、ある店の黒服がこんな話をしてくれた。

「iPhoneのようなスマートフォンを持つお客様が急に増えました。スマートフォンを必要とする仕事ぶりが、出世につながっているのかもしれませんよ」

また、ある中級店で働くホステスは、「皆さん高級財布を持っていて、しかも取り出したときの姿が美しい。領収書とポイントカードでパンパンなんてことはありませんよ」と教えてくれた。彼女によれば、「その中でも出世する男は財布の中が違う」。

「チェックのとき、現金払いのお客様が1万円札を10枚出したとするでしょ。普通はお札の向きがバラバラだから、私が向きを揃えて伝票に挟む。でも、あるお客様のときだけ揃えたことがない。財布に入っている状態でお金の向きが揃っているからです。お金の大切さを忘れないために揃えているそうです」

夜の世界は金銭感覚を麻痺させる。ある企業のオーナー経営者は、「クラブで何万円、何十万円と使っていると、そのうち、お金が無尽蔵に湧いてくるような錯覚に陥る」と話す。そのお客は紙幣の向きを揃えることで、錯覚から逃れているのだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(小原孝博=撮影)
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