宗教施設では監視カメラの設置がなかなか進まない理由
こうした状況のなかで、仏像の「身代わり」を作る動きも出てきている。和歌山県立博物館では近年、本物の仏像とレプリカとを置き換える活動を始めている。その背景には、2009年から2010年の1年間に県内60カ所計160体もの仏像の盗難被害に遭っていたことがある。
博物館は和歌山大学や地元の工業高校と連携し、3Dプリンターなどでレプリカを製造。これを「お身代わり」として置き換えている。すでに30体ほどのお身代わりに置き換わっているという。
同博物館は「仏像を盗難から守るために」というポケットブックも制作。それによると、盗難に遭いやすい場所として、
① 遠くからお堂や神社が確認できる
② 看板や地図でお堂が認知されやすい
③ 車でそばまで入ることができる
④ 進入路が人目に触れず、身を隠せる死角がある
⑤ 無住である
② 看板や地図でお堂が認知されやすい
③ 車でそばまで入ることができる
④ 進入路が人目に触れず、身を隠せる死角がある
⑤ 無住である
と指摘している。
その上で「無関心がいちばん危ない。無関心なままでは、盗られたことにも、壊れていても気づきません。ぜひ、お住まいの地域の仏像や文化財が持つ優れた魅力にお気づき下さい」と警鐘を鳴らす。
国や行政の支援も必要だ。まず、地域の文化財の掘り起こしと、リスト化が第一だ。さらに、文化財としての価値が高い寺宝、あるいは、びんずる尊者像のように地域信仰の核になっている仏像などは、積極的に助成金をつけ、3Dプリンター複製や、文化財のデジタルアーカイブを進めてもらいたいものだ。
宗教施設では「信教の自由」「政教分離」の観点から、行政による監視カメラの設置がなかなか進まない現状がある。しかし、文化財の保護や保全は、そんなことも言ってはいられない喫緊の課題である。
この春、京都に文化庁が移転した。京都や奈良をはじめ、西日本は眠れる地域文化財の宝庫である。この機に宗教法人との連携を強め、文化財の保全に力を入れてもらいたいものだ。